ナイメルン地方のマナセ湖畔の街、マナセ。財宝が眠るという湖の話を聞いた旅人が立ち寄るこの街は、現在過疎に悩まされていた。美人町長のクレイネと女言葉の男性魔法使いセヴァンは、湖の財宝さがしを大々的に行なうことで人を呼び、そのうちの何割かが定着するのを狙うという計画をたてていた。厚い氷が張る湖に眠る秘宝は「ドラゴンルーン」ではないかとか、「ソル・アトスの秘宝」ではないかとの噂もでるが、真偽は不明だ。
また、街の側に出現した石柱は、ドラゴンルーンと同様に最近各地で出現している古代レマンシア文明の産物らしいが、魔法学院設立者のエスターシャもよく知らないレマンシア文明はほとんどのことがわからない。しかし、別の石柱を見たことがあるものは、この石柱は中央部分がぼんやり光っているだけで、他の物のように文字が浮かんでいないのに気付いた。
元海豹猟師のゲッシュの経営する酒場「海豹亭」には冒険者たちが集まっている。そこで彼らは、湖の氷が夏でも溶けないと聞かされた。また、寒さに強い種族のものが氷の下に潜ってみたが、水がシャーベットのようにまとわり付いたように感じたかと思うと見えない壁に阻まれたように進めなくなったという。伝説では、湖は「雪の妖精」が封じたということだ。
セヴァンも現在「雪の妖精」について調査中だが、「精霊」ではない「妖精」についての伝承は少ない。その他、湖に関る情報は、いくつかは矛盾している以下のようなものだった。
・雪の妖精は東からやってきた
・マナセ湖を凍らせたのは雪の妖精
・雪の妖精はマナセ湖に嫌いなものを捨てた
・マナセ湖には雪の妖精が宝物を隠した
・マナセ湖には雪の妖精が眠っている
・マナセ湖で雪の妖精が宝物を守っている
・宝物を化け物が守っている
・雪の妖精は東に戻っていった
そして、三角帽子に黒い猫を連れている「典型的な人間界の魔法使い」の間違ったイメージを元に変装したディアナが猫のキャロルを連れて人間界にあらわれ、各地で料理を食べまくっている。そしてマナセにあらわれたディアナは名物であるアザラシ料理が「氷の城の魔女」のために猟が控えられ、食べられないのに憤慨し、魔女退治に出発することにした。
街でも氷の城の魔女対策に乗り出し、ディアナに出会って以来連れ回されている剣聖シリュウも巻き込まれて、「剣聖」の名前により討伐隊には大勢の人が集まってきた。そして氷の城の魔女に対抗するための手段として湖に眠る秘宝が有効であろうと推測され、それを先に手に入れようという話になった。
そして更に調査した結果として、湖はリュクセールの「フェンリルの森」に住む雪の妖精から彼らが嫌うものを預るようたのまれたが、湖の妖精の手に余るものであったために雪の妖精ごと封じ、それを解放するにはやはり雪の妖精の力が必要となるらしい。ただ、この他にフェンリルの森と雪の妖精が関係するという情報は見つからなかった。
「宝」の正体については「雪の妖精が嫌う」ということから「氷の城の魔女」にも有効なのではと考えられているだけで、正体についてははっきりわかっていない。だが、炎系の魔術を使えるドラゴン・ルーンであることが期待されていて、それを転写することで多数の武器に炎の力が与えられるはずだ。
これからの行動はアザラシ猟師達の様子を見に行くのはシリュウ達、「雪の妖精」に会いに行くのはディアナ達、湖の調査を続けるのがセヴァン達という分担で行われることになった。予想される危険度は先のものから順番に高いが、何が起こるかわからないのはどれも同様である。
「あんな冷たい水の中を潜ってみたのかい?」
アレイシャとセタの会話を聞きつけた女戦士エコーツ・ルオフも思わず会話に加わる。エコーツもあの湖を見て、分厚い氷と冷たい水に街まで引き返してきた一人だった。
「あれぐらいはどうってことはない。だが、途中で進めなくなった」
「進めなくなったって、どういうことだい?」
「氷が身体に張り付いてくるようだった」
冷たい冬の海でも平気なセタだが、まるでシャーベットの中を泳いでいる感じがしたかと思うと、何か見えないものが壁のようになって先に進ませなかったのだ。
「何かって?」
「わからん」
マナセ湖に沈むという財宝の噂を聞きつけてやってきた冒険者は、あらためて凍り付い湖の中には入り込めない場所が存在するのを知らされる。
その湖を凍りつかせている「雪の妖精」がやってきたというフェンリルの森にはディアナ達が出発している。だが、もともとの動機が「名物料理が食べたい」というディアナは早々に「食欲魔人」のあだ名が復活し、その名の通り食べ物につられて寄り道が多くなりそうだ。
マナセ湖自体の調査も進められている。「海豹亭」のゲッシュは湖で魚を捕っているので、魚が釣れない範囲を調べようとしたが、ゲッシュはいつも同じ場所で釣っているということで、自ら穴を開けて調べるしかなかった。
また、氷の妖精に聞いてみようと氷女王フレイアを呼び出したものもいるが、氷が張っているとはいえ実際は初夏の季節に呼び出した事で、フレイアが存在するのに適した気温にするためにブリザードが起きてしまう。更に氷の精霊の力による氷には手出しができないと協力も断られ、あとには雪だるまのようになった人々が残ったのだった。
それでも調査の結果、氷に穴も空けられない地域は特定できた。一方で近くに出現した石柱の調査の方は何も成果を上げることができなかった。
ディアナはやはり道中で食べ物屋につられて寄り道が絶えなかった。それを煽るものもいたのでなおさらである。なんとかたどり着いたフェンリルの森でもなかなか手掛かりは見つからない。
「宴会を開いて興味を持った妖精が出てくるのでは」と考えた者たちが火を囲んで宴を始めたところ、「炎の魔物」の封印を守っている種族だというラオプティーアの少女リューヌが現れた。リューヌの話では「雪の妖精」はやはりマナセ湖に沈み、エルフとスヴァルトの力を合わせ持つ存在だという。「炎の魔物」は雪の妖精の対極の存在だが、それ故に引かれ合うことにもなるために遠ざけていたいのだという。また、炎の力を持つものは炎の魔物に力を与えてしまうので雪の妖精と共に封印したのだという。リューヌは「運がよければエルフの性格の妖精にあって説得できる」と言い、湖に沈める事で氷の妖精を目覚めさせられる宝珠を渡して去って行った。
また、アザラシ猟師の様子を見に行った者たちは一人の猟師を助け、「深追いしなければ猟ができる」と言われた。それを聞いたディアナはアザラシ猟の方についていく事を決め、宝珠は剣聖シリュウに預けられた。
「聞いて簡単に済ませようと言うのは甘かったみたいですね」
「そうそう。だから、あんたたちも手伝っとくれよ」
同じように魚の釣れる場所で氷の下の状態を知ろうとしたエコーツ・ルオフ(19)が借りてきた釣り竿を見せながら声をかけてくる。ただ、ユエと違って、エコーツは自分自身で地道に穴を開けて魚を釣っていた。
「え、あの……」
「何だい。食料調達も兼ねてるんだよ。丁度いいだろ? さっき取った魚を焼いてみたんだ。塩焼き、食べるかい?」
「いえ、その、自分は……いいです‥…」
「そうかい?」
実は、ユエは女性が苦手だった。そんなことを知らないエコーツは、ユエを遠慮深いと勘違いしたようだ。
エコーツは魚が釣れるのを確認すると、次の穴を開けようと立ち上がる。
「ここは、使ってもよろしいですか?」
立ち去ろうとするエコーツに声を掛けたのほ、レオニス・エイブランド(32)だった。
「釣りをするのかい?」
「いえ、釣りではありません。私は釣り竿は持っていませんので」
釣り用に開けた穴から湖の精霊は感じられなかった。
「伝承が正しければ、一緒に封じられているのかも知れませんね」
覗き見る限り、湖面を覆う氷は分厚く、取り除くのはかなり困難とみられる。
「氷の精霊を喚んで聞いてみましょうか‥‥‥」
そう呟いてレオニスが呼び出したのは、氷の精霊の最上位、氷女王フレイアだった。次の瞬間。
「ちょ、ちょっと、何なのさ、これっ!!」
マナセ湖全体でブリザードが吹き荒れ、いきなりの変化にあちらこちらで騒ぎが起こっている。レオニスは、態勢を崩しそうになったエコーツを何とか支えた。
答えは否だった。理由はこの氷は雪の妖精によるもののため、手出しできないということだ。フレイアはそれだけ答えると、サッサと自分の世界に還って行った。
「もっと聞きたいことがあったのに……」
「今ので十分だよ」
エコーツの言葉にレオニスが辺りを見回すと、あちらこちらに雪だるまになった人がいた。
描写だけならそれほどの分量じゃないけど、ばらけつつそこそこの長さに渡って登場。この方が満足感は高いですよね。
2001,07,24季節としては本来まだ暑い時期なのだが、このマナセ湖の辺りは溶けることのない氷と、もともと涼しい気候のせいで気温は秋を感じさせている。ここは今、「ドラゴン・ルーン」の在るところに現れるという石柱の出現や、「氷の魔女」によるアザラシ猟師たちの氷漬け事件などが起き、噂を聞きつけた冒険者たちで賑わいつつある。
マナセ湖に封印された「雪の精霊」を解放する手段が手に入り、その為の準備が進められていた。この期間に「剣聖」であるシリュウに話を聞こうという者も少なくない。2年ほど中断されていた「雪華祭」も、これを機会に再開しようという動きもある。だが、「雪の精霊」はエルフとスヴァルトの両方の性質を持つといい、冒険者たちはそれぞれの場合に備えた準備が必要と考え、行動していた。
「解放」は一部の者が勝手に準備が整う前に実行してしまった。その為に、実行した者も含めて湖の上で準備をしていた者たちが多数、割れた氷から湖に落ちてしまった。
現れた「雪の妖精」はフェンリルの森の主といわれる銀オオカミに酷似していた。それから感じられるのは敵意であり、交渉は決裂。戦闘となった。
戦闘では銀オオカミの素早さに苦戦したものの、魔法の力もあり次第に冒険者達が圧していく。ただ、精霊魔法では呼び出した精霊たちが銀オオカミには攻撃を仕掛けようとしなかった。そして倒れた銀オオカミは「氷の城」について、氷の力を持つものが封じられていたが、この前の冬に封印が解けたと答え、「湖の精霊」に見守られながら消えていった。その「湖の精霊」もまた、「二度と、私を呼び出さないでください」と言い残して姿を消す。
引き上げられた5つの宝箱には、炎の属性の武器や「炎爆」のドラゴンルーンが入っていた。その他に、星型の連なったネックレスや犬のような茶色の縫いぐるみもあったようだ。
氷の城にはまだドラゴン・ルーンがあるらしいことも聞き出している。「炎爆」のドラゴンルーンに対応する石柱はマナセの街の側の物らしく、ぼんやりとしか見えていなかった文字が今ははっきり見えている。そして石柱の側には光の泉があるが、ドラゴンルーンを所持する者でないと見えないようだ。
氷漬けの猟師はまた一人が救助されている。一気には難しいが、地道な作業は大丈夫そうだ。また、雪の妖精は倒れてしまったが「雪華祭」はせっかくだから開催したいと町長のクレイネが言っている。
「けど、こんなところで戦闘して大丈夫なのかい?」
エコーツ・ルオフはセヴァンが作ったマナセ湖周辺図を見ながら、声をかける。
「街と湖は隣り合ってるんだよ。いくら、『雪の妖精』の封印場所が湖の北側、街が南側って言ったってねえ。相手はスヴァルトの性格を持ってるんだろ? 暴走した『雪の妖精』が街に襲撃をかけるなんてことはないのかねぇ」
「その心配もあるわね」
「先に住民を避難させた方がいいんじゃないのかい?」
「おまえは、悪い方に物事を考えるんだな」
ひたすら、街の心配をするエコーツにポツリとセタが呟く。セタは避けられる戦いなら避けようと、『雪の妖精』を信じて話し掛けようと思っている。しかも、仲良くなるために手作りの冷たいお菓子を持参だ。
「用心は必要さ。最悪の事態を想定しておいて、避けられたなら、それは大袈裟だったって笑って済ませればいい。準備不足による不幸はまっぴらさ。そうだろ?」
平和的に終るとは思っていませんでしたが、なんとなく後味の悪い結果ですね。湖が凍りついているという以外に害はないのにこちらの都合で呼び起こし、倒してしまったのですから。
2001,08,20もともとはアザラシ猟の安全祈願であった「雪華祭」は、先頃、雪の女王に対抗する宝を得るために倒してしまった「雪の妖精」に対する鎮魂のための儀式も併せて行われることになり、記念碑の建立も計画されている。
妖精が解放されたことで氷の溶けたマナセ湖を背景に、祭の準備が進んでいく。町長のクレイネはお茶会を催すのが好きなのだが、それを大規模にやろうとしたり、模擬店を出したりといった計画がされている。具体的な案はまだだが、賞品つきのイベントを行なおうという動きもある。
一方では「氷の城」の魔女に氷漬けにされた猟師たちの救出も進められている。もっとも名目上のリーダーであるディアナは食欲が先に立っていて、イマイチ緊迫感がない。それでも漁船を調達し、そこをベースキャンプ代わりに使うという方法がとられることになった。
氷漬けにされた猟師は残り六人。まずはその氷柱を切り出し、運ぶ手段がいろいろ取られている。「炎爆」のルーンを転写してもらい氷を溶かそうという者達もいるが、じわじわ溶ける氷はじれったいほどだった。
氷の城の魔女の出現は普段より遅く、全部の氷柱を回収することができた。急いで逃げ出す一行の前で、氷の城の魔女はその勢力圏のギリギリで白い竜を呼びだす。それは魔女から離れ、船を追わずにどこかへ飛んでいった。
ドラゴンルーンと関係するらしい石柱に浮かんだ文字については何の手掛かりもつかめていなかった。その近くにある、ドラゴンルーン所有者のみが見える「光の泉」に入ったものは、いずこかへと転送されたが、その場所の周囲は「光の泉」以外に何も無い平地だった。その泉に入ったものは、もとの場所へと戻る。
「氷の城」の魔女が救出隊の方に向かっている間に氷の城へと潜り込もうとした者がいた。だが、正確な位置のわからない城を探しているうちに白い竜に襲われる。その後、氷漬けになった彼らは無事発見されて解凍された。
また、新しく発見された石柱に近い「光の泉」の出口は氷の城の目前だという。そして「炎爆のルーン」からは「炎爆」の力を持つドラゴンが召喚できるのがわかり、氷の城に突入して魔女の正体を暴く計画が立てられている。
「長い間封じられていたんだからね。雪華祭に、あいつの追悼の意味も込めてやりたいじゃないか」
声の主は女戦士エコーツ・ルオフで、話の内容からすると『あいつ』というのは、『雪の妖精』のことのようだ。
エコーツは結果的に倒してしまったことになる『雪の妖精』に対して、何らかのことをしてやりたいと思い、記念碑の建立を思い立ったらしい。
「そうですね。封印によってマナセ湖が凍っていたことは、この街にとって何の不利益もありませんでしたわ。お宝探しのために起こしてしまったんですもの。何か残して差し上げた方がよろしいですね」
「記念碑には今回の話を刻んで、立派なのを頼むよ。あたしがお金を出してもいいからさ」
「お金はともかく」
言いかけてから、クレイネは少しの間考えていたが、やがてポツリと呟く。
「どんなお話ですの」
「どんなって……」
「正確に残すには、彼はほとんど語らなかったと聞きますし、私たちはリュクセール地方のフェンリルの森から来たとしか知りませんね」
「そうだね。名前ぐらいは知りたかったね」
「じゃあ、雪華祭では『雪の妖精』については何の儀式もないのかい?」
「今までは特に何もしていませんでしたけど、無理に起こしてしまったのは私たちですので、鎮魂の儀を入れたいと思います。それにエコーツさんが記念碑の建立をとおっしゃっていますので、除幕式も必要です」
「記念碑……?」
名前が出て、エコーツがミネアに苦笑混じりに答える。
「せめてもの償いだよ」
「記念碑ねえ……」
今回は比較的平和ですね。氷漬けの方たちも回収されてるし。エコーツが提案した記念碑はちょっとしたイベントになってしまいました。こういうのもなかなかいいですね。
2001,09,25マナセの街の主要な産業であるアザラシ猟の大猟と猟師の安全を願う祭を、街を挙げて行なうようになったのが『雪華祭』である。今回は集まってきている冒険者達の参加もあり、大規模な物になりつつある。
『氷の城』の魔女の被害に逢う者が多くなったことで組織された討伐隊だが、リーダーに祭り上げられているディアナの『祭に参加したい』という言葉で、解決が急がれている。
見つかった石柱のルーンについて研究しているセヴァンは、魔女の行動範囲がだんだん広くなっているとの報告を受けていた。『雪の妖精』がいなくなったこととの関係も考えられるが、定かではない。
『氷の城』へはドラゴンルーンを持った者のみが見ることのできる『光の泉』から転移して肉薄することができる。そして、魔女は『近くにいるものを最優先』に攻撃し、離れた場所にいる者には白いドラゴンを呼び出して対応させているようだ。このことから、最初に勢力範囲内に囮を送り、そこで魔女が対応している間に『光の泉』から城へと乗り込もうという作戦が立てられた。また、魔女が杖についている氷系のドラゴンルーンを使うのは確実だろうが『魔女』である以上ルーンに頼らない攻撃に対しても油断はできない。そして、表に現れているのが単なる操り人形である可能性も高いと思われている。
だが、囮部隊の前に現れたのはドラゴンの方であった。セヴァンの所持する「炎爆」のルーンから紅いドラゴンを呼出して応戦させるが、急遽作戦の変更も検討される。
実は囮の前にドラゴンが現われたのは、思い込みから魔女に味方しようと『氷の城』へと独断先行した者がいたためであった。魔女がそちらに対応している最中に囮部隊が活動を開始したため、そちらにはドラゴンが向けられたのである。
結局本隊は魔女と対峙することになる。『できるだけ殺さないように』との方針の下での戦闘だったが、転写された『炎爆』のルーンの力を手加減するのは難しく、魔女は炎に包まれた。
戦闘を他の者に任せ、城へと侵入した者達もいる。助けを求める声が聞こえるように思いながら進んだ者達が広間で見つけたのは、氷の棺のような物の中に眠る『魔女』の本体と思われる物だった。そこに新たに白いドラゴンが呼び出され、外で戦闘していた者達も命からがら『光の泉』に飛びこんで脱出した。
ドラゴンの後を追うように、城からは『氷の道』が延びてきた。マナセの街近くまで達したその道の為に『氷の城』へと続く『光の泉』は使えなくなった。そして討伐隊が帰り着いた時、既に雪華祭は始まっていた。
「皆、気を付けて行ってきな」
マナセ湖に面した見晴らしのいい場所から『氷の城』に向かう一行を見送っているのは女戦士エコーツ・ルオフだ。エコーツは『雪の妖精』の記念碑を建てる場所の選定をしている。
「帰ってくるまでには完成してるだろうよ」
有志による寄付と一緒にもらった碑文案を考慮して、最後の決定はエコーツが下すことになっている。
ここは街と湖が見渡せる絶景の場所だ。そこに除幕されたばかりの石碑が建っていた。
「ずいぶん立派なものになったねぇ」
大勢の人から寄付金を得て、思った以上に立派な石碑になった。エコーツはそれぞれ思うところがあるのだと感じる。碑文は『雪の妖精の碑』とだけ。後は、街の人たちが伝えていってくれるだろう。
「あれは……何だい?」
エコーツが周囲を見回していた時である。北の方から雪を巻き上げて何かが近づいてくる。
それは『氷の城』から続く、氷の道だった。
記念碑関連には関ってくれるPCさんがいなかったようですね(^_^;)。抜粋部分を見ると、本筋の方と何とかからめようというマスターの努力がうかがえます。
ちなみに寄付金、エコーツは5000クラン出してます。プレビジオンって、他にサブRAかけるつもりが無いなら結構な高確率で5000クランがGetできますしね。
2001,10,24マナセの街付近ではドラゴン・ルーンに対応すると思われる石柱が2本見つかっている。一本はマナセ湖から回収された炎爆のドラゴン・ルーンのもので、もう一つは「氷の城」の魔女の持つドラゴンルーンと対応するものだと考えられていた。
その石柱やドラゴン・ルーンの「文字」を研究していたセヴァンは、協力者の指摘によりドラゴン・ルーンが何かの紋章のようなものではないかという考え方に思い至る。だがサンプル数が少なくて解析は難しい。そして「炎爆」のドラゴン・ルーンを持つセヴァンに対しては、セヴァン自身が戦闘能力を高めれば操るドラゴンの戦闘力も上がると考えたものが特訓を施すことになる。
町長のクレイネは避難の準備はするが、無用の混乱を避けるために慌てた態度を見せることは避けていた。氷の城の魔女討伐隊は城の中で「助けて」という声を聞いた者がいることから真の敵を見誤らないようにと考えを巡らせていた。なお、セヴァンは特訓に耐えかねて「炎爆」のルーン原物を他人に貸し与えている。
城から延びた「氷の道」が何であるのかについても意見の分かれるところだった。招待あるいは挑戦状と見てそれを通って城に向かう者もいれば、何らかの方法で道に降りずに向こう側に渡り「光の泉」で向かおうという者もいる。魔界公女ディアナはソリに乗って氷の道を進んでいるが、彼女には指輪を渡している者もいる。剣聖のシリュウもソリで進むが、こちらは前面に出る囮部隊である。
氷の道を進む者達の前には前回燃え尽きたはずの魔女が再び現れていたが、それが本体であるのかどうかはまだわからない。そして魔女は白いドラゴンを、討伐隊は紅いドラゴンを呼びだして戦うことになる。
潜入部隊は不気味に光る石柱を横目に城内への侵入を果たしていた。怪しげな装置を(事故で)破壊したことにより、魔女の納められている「氷の棺」の封印が解かれた。それは本当に「棺」であり魔女も既に死者だったのであるが、副葬品として納められた「氷水」のドラゴン・ルーンの魔力により魂が捕われ、近年ルーンが活性化してからは完全に支配されていたのだという。解放された魔女はまもなく崩れ去った。
そして「石柱」からは解放されたドラゴンが出現した。石柱は呪文の一種であり、すべてが解放されることで「魔竜」が人間界に出現、他のドラゴンも本体を送り込んできたという。魔竜は人間界に恨みを持ち、滅ぼすのが目的だといっている。それに対応して街では避難活動が始められた。
「おや、ここにいたのかい」
不意に背後から聞こえてきた声に二人は驚いたように振り返る。話に夢中になっていて、女戦士エコーツ・ルオフの呼び掛けに気付いていなかったらしい。そんな二人を見て、エコーツは苦笑を浮かべた。
「驚かせたかい。悪かったね」
「いいえ。何かご用ですの?」
「ああ。ちょっと白いドラゴンとの戦いを前に、ちょっと戦力増強の相談をしたくてね」
「戦力増強? 私にですの?」
キョトンとした表情のセヴァンに対して、エコーツは当然とばかりに肯く。
「話によるとルーン原本から呼び出されるドラゴンが強いそうじやないか。だったら、それをもってるあんたが上手に戦えればより強くなるって思わないかい?」
「……はい?」
思わぬ方向に話がやってきたので、セヴァンは思わず一歩後退る。もちろん、エコーツが逃がすはずもない。
「型を教えるから、しっかりなぞって覚えるんだよ。みんなが生き残る為だ。なあに、あたしが毎日戦闘訓練に付き合ってあげるよ」
「ちょ、ちょっと。私は魔法使いなのよっ。それが、何で戦闘訓練を……!」
「みんなの為だって言ってるだろ。男なら覚悟を決めな」
「男だって……きゃーっ」
抵抗も虚しく、セヴァンはエコーツに庭へと引きずられて行く。
このブランチだけで見ると魔竜のことはちょっと唐突かな。もう少しルーンに対しての情報があった方が面白かったようにも思うけど。
2001,11,26氷の城の魔女はシステムの暴走に取り込まれた存在だったらしく、いったん目覚めることで呪縛から解かれて永遠の眠りについた。それはともかく、「氷水」と「炎爆」の魔竜が復活して恨みを持って人々を襲おうとしている。
マナセの街では人々の避難が始まっていた。幸いといっては何だが、魔女の討伐時に避難準備をしていたおかげで人々はかなり落ち着いて、避難所でお茶を楽しむ余裕もある。その中にはディアナの飼い猫キャロルを囲む面々もいた。人語を解することをとうとう認めてしまったキャロルだが、魔界の者といえど所詮は猫。さほど重要なことを知ってはいなかった。
精霊魔法の使い手には魔竜との和解を望むものもいた。魔竜が封じられて力をいいように使われたという怒りは、精霊たちも感じているのではないかという考えからである。彼はドラゴンルーンによって活性化した石柱をなんとか静めようと考えていた。
ルーンの転写は力の分散なのではないかと考えた者もいる。ただ、いったん転写されたルーンからは再転写不能だし、ルーンを消してみてから効果がなかったとなれば有効と思われる攻撃手段を失うことにもなってしまう。逆に増やして使おうという者もいるが、念じないといけない以上一だけ会っても使う人間がいない。
魔竜の弱点をつき、動きを止めた後に説得を考える者もいる。ただしその弱点がどこなのかはわかっていない。結局「氷水」のドラゴンは光の泉を抜けた先の何もない氷原におびき寄せて戦うということが決定されただけである。
その戦いではディアナも一応参戦した。冒険者に乗せられて「火炎弾」を使ったのだが、それは並の冒険者以下の威力だった。だが、不満を口にする者に対して「この辺り一帯、全部吹き飛んでいい?」と聞き返されると必死に止める者もいるのだった。
氷水のドラゴンに対しては「炎爆」のルーンの力が有効と考える者も多い。その力を武器にまとわせて戦う者も多いが、決定打になるほどではないようだ。その中でおそらく弱点であろうという目を攻撃することを狙った者がいて、その試みは成功した。
石柱の力を押さえようと「氷水」のルーンを「炎爆」の石柱に強制的に転写しようとしていた者がいた。だが、それが実行される前に飛来した光球が石柱を破壊する。後にわかったのは、それはソル・アトスの秘宝が解放されたためで、世界中にあった石柱が破壊されたという。
石柱の破壊後も、なお氷水のドラゴンは荒れていた。目をやられて動きの止まったドラゴンの、鱗のない口の中に大量の火炎魔法が打ち込まれる。最後の決め手となったのは、「氷水」と「炎爆」の力を同時に発動させたときの衝撃波だった。氷水のドラゴンは恨み言を言い残して壊れた石柱に消えていった。
炎爆の魔竜もやはり倒されているが、元の世界に戻ったのか死んだのかはよくわからない。石柱がないのでもう人間界に関わらないだろうという見方は有力だが。
「氷の城」は戦闘に巻き込まれることもなく、何らかの利用法がないかと考えられている。実はある者が使い道があるかもしれないと戦場にするのを反対したのだが。
町長のクレイネは中断された雪華祭のやり直しをかねた感謝祭を催すという。以前の祭りでは冒険者たちがそれどころではなかったため参加出来なかったからというのもある。
そういうアレイシャが狙っているのは、魔竜がブレスを吐く瞬間。その前には必ず息を吸い込むからだ。その瞬間を狙って、鱗のない口腔目掛けて攻撃を仕掛けようというのだった。
「なるはどね。けど、あの魔竜、結構、遠慮なくブレスを吐いてないかい?」
「う……」
女戦士エコーツ・ルオフのツッコミにアレイシャも一瞬言葉に詰まる。
「とはいえ、口を狙うのはいい案だよ。ちょっと危ないが、あたしもその戦法で攻撃するかね」
「魔法?」
「いや、これだよ」
そう言ってエコーツが見せたのは《炎爆》と《氷水》のドラゴン・ルーンをそれぞれ片方ずつに転写したレザーグローブだった。
「どうすんだ?」
「水ってのは蒸気になると意外に力を発揮するんだってね。両ルーンを同時に使って、発生させる水蒸気の爆発力でダメージを与えられないかと思ってるのさ」
「い?」
「力と力がぶつかり合う衝撃力ってところかな」
「……あんた、学者か?」
「いや。戦士だよ」
にっこり笑うエコーツにアレイシャは引きつった笑みを浮かべながら、追求するのを止めた。とはいえ、かなり危なそうだ。
「……これはすごいね」
エコーツが思った以上の爆発力が発生したらしい。魔竜の顔も吹っ飛んだが、エコーツの身体も吹っ飛ばされた。手がジンジンと痛む……。ふと見ると、ドラゴン・ルーンを転写していたレザーグローブは衝撃で消し飛び、手は軽い火傷を負っていた。
「腕がなくならなくてよかったよ……」
かなりPL知識に頼ってしまいましたが、そこそこいい役をいただきました。「両方使う」というのは他にいなかったんでしょうかね。とりあえず、次回はエピローグになりそうです。
2001,12,31氷の城の魔女の事件から始まった騒動も一通り解決し、マナセの街では感謝祭が行われた。事件解決に尽力した冒険者達に対してのものだが、過疎で慢性人手不足の折り、冒険者自身も協力して進められている。恒例の町長のクレイネによるお茶会もそれとは別に行われていた。
氷の魔女の封じられていた「氷の城」は観光地としての整備が行われて町興しの手段となる予定だった。この事件の記念碑として、今後の雪華祭を氷の城で行おうという話も出ている。街からの移動は「氷の道」を使うことが考えられた。補修、整備には「氷水」のルーンが使えるだろう。
ルーンを使うことには反対意見もあり、セヴァンの左手にくっついてしまった「氷水」はともかく、「炎爆」のルーン原物は次元魔法で異世界に捨ててしまうことが決定されていた。もっとも今ある力を使うのに抵抗を持たないものもいる。
氷の城には動きが止まったとはいえ罠も多数残っている。その安全確認と魔女の供養に向かう一行の隊長になった剣聖シリュウにはプロポーズするものや手合わせを願うものも多い。また、今後のために自警団を組織しようという者もいた。
シリュウにプロポーズした者は、揃って受け入れてもらうことは出来なかった。シリュウ自身に家庭を持つという意識がなかったのと、実際に言われるまでまるで気がついていなかったことから即答出来なかったということからになる。ただ、そのうち一人はシリュウの修行の旅に同行することを承知させた。
感謝祭は不安が消えた状態であることもあり、大いに盛り上がりを見せた。少々羽目を外しすぎるという場面も見られたが大過なく祭りも終わり、街は観光地として進んでいくだろう。
「『氷の城』もそうだけど」
やはり部屋を出ようとしたクレイネを呼び止めたのは女戦士エコーツ・ルオフである。
「けど、もう少し、街自体の警備体制も強化したくないかい?」
「警備……ですか?」
ほとんど動じないマイペースなクレイネはともかく、率先して街の人の防衛に、避難に動ける人員を確保しておく必要はあった。それに、『氷の城』を中心に観光地として人を集めるなら、やがて治安維持の問題も出てくるかも知れない?
「そうですね。火事の心配だってありますし」
「それもそう、だね。あたしもこの街が気に入ったし、ここで修行を積もうと思ってる。自警団を兼ねて武道教室を開いていいかな?」
「もちろん、お願いします」
まあ、エピローグですね。最近のゲームでは珍しく、というか恋愛話がありつつもカップルの成立が見あたらなかったりして。シリュウの件もあるけど、まだ「成立」じゃないでしょ。あんまりうまく動けた訳じゃないけど、楽しめはしましたね。
2002,02,07