カッサの夜


「はぁ・・・」
 疲れた様子でため息をつくのはカッサの代表格の少女イスメネ・クリニケス。今は亡き前領主クレオン・クリニケスの姪である。ここしばらくの旅で随分成長したとはいえ、まだまだ若い彼女には随分な負担だろう。
「疲れているようだな、イスメネ」
 話し掛けたのはレグルタの末裔である紅色の髪の美形の青年戦士、デュナス・リヴァー。イスメネが旅に出る前から彼女を支え、実の兄のエテオクレスと離れていた間に「赤いお兄さま」とも呼ばれた青年である。
「大丈夫よ。まだまだ大変な時なんだから」
 イスメネ達は「ヘルネサルド統一」構想を現領主のリーンにぶちまけた。リーンはクレオンから後を任され、カッサでも大きな力を持っている。交渉はデュナスの力もあってなんとか協力を取りつけたが、それも「カッサの利益になれば」という条件つきである。更にはカッサもまだ復興の最中なのだ。
「しかし無理をすることはないぞ。今日の残りは俺がなんとかするから休んだらどうだ」
「でも、それじゃ・・・」
「今、市民が求めているのは希望となる存在だ。倒れたりするよりは十分休んだ方がいい」
 デュナスの口調には有無を言わせないものがあった。
「それじゃ、お願いするわ。でも、デュナスも無理はしないでね。あなたも倒れては困るんだから」
「大丈夫。こう見えても知識はけっこう豊富なんだ。ゆっくり休めよ」
 そういってデュナスはイスメネを送り出した。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「・・・やれやれ、やっと終ったか」
 デュナスが書類を処理し終えた時には既に夜もすっかり更けていた。イスメネにはあんなことを言ったが、なんといっても戦士としては専門外の仕事である。時間がかかってしまうのもしかたがないだろう。長いデスクワークで固まった体をほぐすように、机に向かって座ったまま軽く伸びをする。
「すっかり遅くなってしまったな」
 そういって暗い窓の外を見る。なんとかダークレイスを撃退したばかりの街は、警戒の詰め所がいくつかある他にはほとんど明りもない。どうやらほとんどの人間は眠りについているという時間のようだ。デュナスは部屋の明りを消す。
「・・・おや? あれは・・・」
 部屋が暗くなったことで外の様子がはっきりと見えるようになっている。その暗い路上にちらりと動く人影が見えた。
「こんな時間に一体誰がこの周りを・・・」
 デュナスはその人影に更に目を凝らす。どうやら小柄な女性であり、何より見覚えのある人物であるようだ。
「・・・イスメネ、か?」
 そう認識すると、デュナスはすぐに執務室を飛び出していった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 出遅れたとはいえ、デュナスはなんとか見失うこともなくイスメネの後を追うことができた。とはいうものの深夜ということもあり大声で呼びかけるわけにもいかず、イスメネが暗い路地を通ることもあって追いつくことはできない。

「イスメネはこの道に慣れてるのかな・・・?」
 それほどの距離は行かないがそんな疑問が頭に浮かぶ頃、イスメネが足を止め、ある建物の裏口をノックするのが見えた。デュナスが辿り着く前に扉が開き、イスメネが迎え入れられる。
「・・・男、だったかな? しかしここはどこだ?」
 扉が閉じる前にちらりと見えたのは男性だったような気がする。それが誰かははっきり見えなかったし、この建物も深夜の、しかも裏道とあって一体どこであるのかちょっと思い出せない。
「別に個人の問題なら立入るつもりはないが・・・相手がどんなヤツなんだか」
 デュナスは小声でつぶやく。
「変な奴がイスメネを利用しようっていうのなら止めなくては・・・」
 ぶつぶつ言いつつイスメネが消えていった扉に近付く。と、扉の向こうから間違いなくイスメネのものである「キャッ」という小さな悲鳴と、ほぼ同時にドサッという、人が倒れるような音が聞こえて来た。
「イスメネ!」
幸いというか鍵のかかっていなかった扉を開けて建物に駆け込み、廊下の先にある明りの付いた部屋に向かう。部屋に入って目に飛び込んで来たのは床に倒れたイスメネと、その横に膝をついて覗き込むようにしている若い男の後姿だった。
「・・・!」
 言葉も出さず攻撃を仕掛けるデュナス。だが、若い男もさっと攻撃を躱し、素早く間合いをとって向き合う。
「なんだ、デュナスさんか。あぶないじゃないの」
 若い男が声をかけてくる。
「・・・セヴァエルか。一体ここで何をしている?」
「何といっても・・・道場で組み手をやってるんだけど」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「ストレス解消に拳術の修行ですか?」
 出されたお茶とお菓子を前にしてデュナスがイスメネに話し掛ける。
「そうよ。ずっと机に向かってるとなんだか参っちゃって。たまには体を動かしたくなるの」
 同じくお茶を飲みつつイスメネが説明する。
「イスメネちゃんも忙しいからね。いつでもいいよって言ってあったんだ」
 お茶とお菓子を用意したのはここの道場主であるセヴァエル・ルオフ。やはり共に旅をした仲間であり、旅の間にもイスメネに拳術を教えていた。まだ少年といってもいい彼が道場を持てたのもイスメネ達の支援があってこそである。最近は門下生を自警団としても組織している。
「・・・深夜に出歩くのはあまり歓迎しないな」
「ごめんなさい。まだ起きてるとは思わなかったから」
 苦言を述べるデュナスに謝るイスメネ。
「でも、入ってくるなりセヴァエル先生・・・に殴りかかることはないでしょ」
 今だに教えてもらっていた時のクセが抜け切らないイスメネの言葉に、デュナスが口ごもりつつ答える。
「いや、俺はイスメネが悪い男に利用されてるんじゃないかとか・・・部屋の明るさに目が慣れてなかったし・・・別に個人の自由恋愛なら問題はないのだが・・・」
「え? 何をぶつぶつ言ってるのよ」,br>  イスメネにはだんだん小声になっていったデュナスの言葉の後半は聞き取れなかったようだ。
「まあまあ、ここでストレス溜めてもしょうがないでしょ。どう? デュナスさんもちょっとやっていく?」
 なだめるセヴァエルにデュナスが答える。
「そうだな、少しお相手してもらおうか」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 それからしばらくして、十分に汗を流したイスメネとデュナスは、今度は正面の出入り口から帰っていった。二人を見送ったセヴァエルが誰にともなくつぶやく。
「イスメネちゃんには聞こえなかったみたいだけど・・・恋愛か。ぼくの方はそれでいいんだけどな。イスメネちゃんはどうなんだろ。それにデュナスさんは。旅の間はお兄さん、って感じだったけど、イスメネちゃんをどう思ってるのかな?」

 そしてちょっと考え、小さいが、はっきりとした意思をもってつぶやく。
「そうだね、そろそろはっきりさせなきゃね」


後書き、のようなもの

 公開時期が遅れちゃいましたが、セヴァエルのプラリアです。時期的には第8回の後、9回の前ということになります。実際に製作したのもその時期。デュナスさんのPLさんには使っていいかだけ訊いておいて、返事の前に製作。〆切の都合もあってご本人にチェックしていただく前にマスターの方に送ってしまってます。幸い問題ないということでしたけど。

 それにしても・・・主役がデュナスさんになっちゃってるよな。一応ラストはセヴィに持ってきたけど、ちょっとちぐはぐな構成かも。それにゲーム中ということもあって、結果は何も出てないんですよね。

 リア要約のほうにあるように、イスメネはデュナスさんとともにエルツベルムの王位についてるんですね。結婚の方ははっきり描写されてないけど、ここまで偉くなっちゃうと町の道場主レベルじゃ相手になりませんね。政治的にも大きな問題になりますし。この後セヴィが相手になるぐらいの実力者になるか、はたまた別の相手を見つけるのか。それはこちらも決めてないです。決まっているのはこの道場が後の四兄弟の時代までは少なくとも続き、ゴルドバールに使えているということ。その間がどうなっているか・・・。それは別のエピソードがあったら設定するかもしれません。


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