明示弐拾四年拾月拾七日発行

明示怒音


号外


怪奇!?自然発火男


 昨晩、我が編集部は、十月十日に起こった怪奇な事件が揉み消されていた事実を発見した。

 その怪奇な事件とは、「当局に捕らえられたという身元不明の異人が、警察官の目の前で青白い炎に包まれて死んだ」というものである。

 場所は新橋。不審者がいないかと夜の見回りをしていた警官は、挙動不審な異人を発見。事情聴取のために話しかけたところ、「総帥様お許しを!」と一言うめいたかと思うと、次の瞬間には男は青白い炎に巻かれて燃え尽きたというのである。

 当局は当然のようにこの事実を否定しているが、我々編集部が独自の筋から調査した結果、この事実が浮かび上がってきた。

 ここ半年ほど、東京では怪奇な事件が起こっているが、その多くを当局は否定している。

 先日、我々が行った「青い光を放つ目玉水晶」に関する調査に関する返答も、当局は行っておらず、あくまで東京にこれといった異変はないという態度を通している様子。今回のこの異人の死に関しても、
「そのような事件がない以上、当局としては捜査を行うことはない」との返答をもらっている。

 当局がなぜここまでに怪奇現象や怪事件に対し、執拗なまでに否定を続けるのか。我が編集部では、その裏に何らかの陰謀が絡んでいると考え、全力で調査中である。


 この事件の調査の結果、我々は、人体が突然発火して死に至るというこの事件が、西欧では決して珍しい事件ではないということを知った。

 これは西欧では「自然発火」と呼ばれる現象で、年間で3人は死亡者がでるものだという。その原因は、西欧の最先端の研究においてもまだ定かではない。しかし何においても先駆的である西欧においては、「自然発火」は厳然たる事実として認知され、専門の研究家も存在する研究分野とのことである。日本でもこれだけの理解があれば、我が編集部もずっと楽に活動ができると思うと口惜しい限りである。


 それにしても不可解なのは、この燃えて死んだという異人の身元である。

 燃え尽きてしまっては身元の確認もできるはずもないが、日本にいる異人の数はまだまだ少ない。一人でもいなくなれば、騒ぎになって当然である。にも関らず、一週間も経っている現在においても、その身元は明らかになっていないという。

 これはもちろん当局が調査を拒否していることにも起因するが、実はそもそもこの異人が不法に日本に侵入した人物だからではないかと我が編集部では考えている。しかもこのことに関して当局が動き出さないのは何らかの圧力によるものではないだろうか。

 もしそうなら、日本政府に圧力をかけられる異人の大々的な組織が存在していることは容易に推察され、当局の一連の不審な行動にも合点が行く。

 我々はその組織の正体究明、そしてその組織との当局との関係を今後とも調査していく予定である。


なんと銀座の町に河童の姉弟現る!

 十月十五日の夜。銀座の町中に、全裸の河童の姉弟が現われ、小一時間ほど騒ぎになった事件があったことが、我が編集部の調査により判明した。

 近所の住民の言によれば、河童の姉弟は、服を着ろとの再三の要求にも応じず、往来を全裸で歩き続けたとのことである。

 この事件に関しある著名な文化人は
「江戸時代には服は一張羅しかなく、普段は裸で過ごすのが当然だったのであり、この河童の行動はむしろ自然である。それに対し騒ぐのは西洋にかぶれた誤った認識である」と発言している。

 我が編集部では、この河童たちが自らを「桃桜」と「萩桜」と名乗ったというのを手がかりにこれからも追っていく予定である。


編集後記

 我々編集部の行動に対する当局の対応は、日々苛烈になってきていると言ってもいい。

 この間などは財布を落としたので届け出ようとしたにも関らず、
「ああ、あなたの話はもう聞き飽きましたから」と無下に追い返される羽目になった。

 また、読者の声も当局からの無言の圧力を受けてか、日々冷めていっているというのが、我が編集部の見解である。

 先日の「仮面の男」事件の調査に関して、街の声を聞いたが、
「当局が調査しないのは、そんな事件がないからに決まってるじゃん。こいつら馬鹿なんじゃないの?」と言った、完全に当局の権威に騙される形になっているものもあった。

 だが、我々編集部はかくも多くの隠された事件を公にするために、これからも戦っていくつもりである。

 もしこの「明示怒音」が発行されなくなるようなことがあった場合、それは当局からの圧力によるものかもしれない。

 しかしそれでも我々の正義の心だけは決して奪えるものではない。

 この正義の声にならぬ声、「怒音」の精神は時代を超えてこれからも語り継がれるだろう。


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