その後の生活


クラル・ラッツの場合


「いらっしゃいませ。」
 とあるコンビニの店内に女性・・・というよりは少女の綺麗な声が響く。声の主はクラル・ラッツ。外見こそお嬢様然としているが、つい先日まではハンターをしていてグレネード弾ぶっ放していたというなかなか見かけによらない人物である。
 ハンターを廃業したのはクリーチャーがいなくなってしまい、仕事が激減したためである。特に彼女が武器としていたグレネードランチャー(及び火器類)は粉末メモリウムの爆発力を使う。メモリウムがなくなりつつある今、とてもではないが割に合う仕事ではない。そう判断したクラルはあっさり廃業を決め、武器を売り払った。持っていたメモリシアも大部分を手放している。将来値段が上がる可能性もあるが、消滅してしまう可能性もあるのだ。もっとも市場が混乱した時期を逃さず、一番高く買い取ってくれるところを探し回って売却したのは彼女らしいところである。この立ちまわりで彼女が親から引き継いだ借金はほとんどを返済できたというからかなりうまくいったようだ。
 ハンターを廃業したクラルは、ハンターとして最後の依頼者であった女性に、半ば強引にこの仕事を紹介してもらった。依頼人の双子の弟が建て直しのバイトをしていた店らしい。なんでも毎月爆発していたのでしょっちゅう建て直していたそうだ。店員には女性型スレイヴ・ドールがいるのだが、SDはメモリシアをエネルギーとしている。「今のうちに人間の店員をいれておいた方がいいわよ」と店長を説得して雇ってもらったのだ。ちなみに給料は押しかけてきた割には高めである。「毎月爆発するなんてところじゃ、人なんて集まらないから」などと店長を説得した結果である。単にクラルのしつこさに店長が音を上げただけかもしれないが。

 そんなわけでコンビニ店員となったクラルは、目下修行中といった感じである。さすがに先輩店員であるSDのように24時間働くわけにはいかないが、ハンター時代に自分の仕事はきっちりこなす精神が培われており、働き振りもまじめなものだ。少なくとも見た目だけはお嬢様であり(実は単なる一般市民の出身だが)、年齢の割に苦労を重ねたことから身についた、思わず助けてあげたくなるような雰囲気から(もちろん猫かぶっているのだが)看板娘となりつつある。もっともまだ帝都の混乱はおさまりきっておらず、必ずしも平穏とばかりは言えない状態だ。

 その日もクラルが店番をしているときにライフルを持ってマスクをかぶった男が押し込んできた。SDの先輩店員と交代した直後であるのを見るとタイミングを狙っていたのだろう。
「全員そのまま動く・・・ぐぇっ!」
 男は「動くな」まで言うことが出来ずに床に叩きつけられた。クラルが突き付けられた銃身を跳ね上げつつ足を払い、そのまま奪ったライフルのストックを鳩尾に叩きこんだのだ。銃を持っていなくても2ndランクハンター、コンビニ強盗程度なら敵ではない。
「先輩、すみませ〜ん。店番変わっていただけますかぁ?」
 綺麗な声で奥に声をかけつつ、気絶した強盗の手足を手際よく拘束していく。
「あら。強盗さんだったんですか?」
「ええ。でもこの店に押し入るなんて、素人ですね。っと。それじゃ、よろしくお願いします」
 実はSDの店員も本来は戦闘用なのだが、実戦を経験していない。従って戦闘力はともかくその後の処理では経験者のクラルの方が上であり、最近こういう事はクラルが担当している。SDに対するより彼女の方が官憲の対応もよくなるという理由もあるのだが。やがて通報を受けてやってきた当局に強盗を引き渡し、再び店番に戻る。ちょうどお客が一人会計を終えたところのようだ。
「ありがとうございました」
 店内に綺麗な声が響く。



レカム・エピサーの場合


 帝都に戻ったスレイヴ・ドールのレカム・エピサーが目にしたのは堅く閉ざされ、ここしばらくは使われた様子も無い主人の屋敷であった。人間であったら途方にくれるところであろうが、彼の表情は変わらない。もともと感情的なプログラムがほとんど設定されていないのだ。そのプレートアーマーを着込んだような体からは想像し難いが、彼は料理専用として作られたSDであり、記憶容量のほとんどをそのデータ用に確保してある。彼が主人の元を離れていたのも、その空いた容量に入れるべき、未知の料理を探すためであったのだ。そして、設定された期間が過ぎ、帰ってきたのであるが・・・

 やがてレカムは表情も変えずに歩き出す。しばらく歩いて目的のものを見つけ出した。公衆情報端末である。レカムは左の二の腕からコネクタを引き出すと、ジャックに接続する。
「検索開始・・・該当5件・・・絞込み条件設定・・・転居データ・・・移転先・・・」
 ほどなくして目的の情報を手に入れたレカムは接続を切り、ぽつりとつぶやく
「帝都の外、ですか」

 レカムが主人の元に辿り着いたのはその日も暮れようというころであった。主人の転居先はしっかりした造りではあるが、派手さの無い建物であり、周りには農園が作られていた。裏手に見えるのは家畜小屋であろうか。
 レカムが農園を抜け、玄関に向かっていると横から声がかかった。
「おお、ガチャガチャ音がするかと思ったらレカムじゃないか。よくここがわかったな」
 横手にある窓から顔を覗かせているのは彼の主人である。どうやら彼の作動音を聞きつけたらしい。
「はい、マスター。管理局のデータにアクセスしました」
 久しぶりの再会ではあるが、レカムには感動というものが無い。旅に出ている間もレカムにとっては主人の命令を果たしていただけであり、それが終わって帰ってくるのは当たり前なのだ。
「そうか。ともかく入れ。これからについて話をしよう」

 家の中は意外にもかなりのテクノロジーが使われていた。
「ある貴族が提唱した郊外の開発計画があってな。帝都の治安も悪くなってきたし、実験的な移住に志願した。やはり新鮮な食材の味は格別だからな」
 主人は説明しつつソファに腰を下ろすと、まじめな顔になって続けた。
「さて、メモリシアがなくなりつつある今、スレイヴ・ドールを単なる道楽で動かすことはできん」
 その言葉にもレカムの表情は変わらない。彼の存在にかかわることなのだが。
「だが、おまえには料理という特技がある。以前の帝都なら料理というものは趣味で食べるものだったが、これからは違うだろう。カロリーブロックもメモルギア・テクノロジーの産物だからの」
 カロリーブロックはかつては無償で支給されていた。味はともかく、帝都の市民ならば生きていけるだけの食料は保証されていたのだ。
「人が生きていくためには食べることが必要だ。そしておまえはいままでにさまざまな料理を身につけたはずだ。材料を有効に使うような料理ができるだろう。それを人々に教え、また、更なる料理を工夫することがおまえの新しい使命だ」
「わかりました、マスター。材料を有効に使う調理方法の伝達と工夫ですね」
 冷静に言葉を返すレカム。
「そうだ。何か質問はあるか」
「それでは現状で手に入る食材の把握から入りたいと思います。リストは有りますでしょうか」
「うむ、リストはないが明朝から実際に見てもらおう。その方がわかりやすいだろうからな。他に質問が無ければ今日はもう下がっていいぞ」
「では、キッチンの隅をお借りしてよろしいでしょうか」
 SDのレカムは休息もそれほど必要としない。ただじっとしているだけでも十分に体を休めることができる。
「おまえはそれでもいいかもしれんが、他の人間が驚く。部屋を用意させるから、そこで休め。明日改めてみなに紹介するとしよう」

 それからの数年、レカムは自らも工夫しつつ、人々に料理を教えていた。旅の間と違い、的確に味を判断できる人間が周りに多くなったこともあり、味の方もよくなっている。と、いってもレカム自身には先入観による判断をしないよう、味の区別はできるが美味い、不味いの評価は出来ないようになっているのであるが。そしてその料理の数々はレカムのメモリから人々によってまとめられ、何冊かの本となる。メモリシアの供給が途絶え、レカムの機能が停止したとしても、それを食べる人がいる限り彼が集めた料理は残る。


後書き、のようなもの

 え〜、そういうことでステマリキャラの後日談です。ちょっとノリが悪いけどね。「書きたくなって書いた」じゃなくて「書こうと思って書いた」だから。

 クラルのほうは、まあ元気でお仕事してるだろうということでこんな感じ。NPCの名前は書いてないけど、強盗以外は誰だかわかるよね(^_^;)。「最後の雇い主」と「双子の弟」がエミヤンとワケヤン、コンビニ店長がリリー、先輩SD店員がエルージュ、当然コンビニの名前はEXマートです。ワケヤンがEXマート建て直しのバイトしてたってのはDEブランチのリアにあったことだからね(^_^;)。

 レカムの方は・・・救われてるのかなぁ。所詮はSD、今後新たなエネルギーが発見されない限り数年後には活動停止するのは運命なんだよね。もちろんレカムはそれを受け入れるでしょうが・・・。仕事があとに残るという意味では幸せなのかも。


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