彼を目にしたとき、真っ先に視線が行くのは、その燃えるような赤毛だった。
人工染料では出せない天然の鮮やかな色彩は稀有なものだったので、
彼がまだスラムで暮らしていた頃は一束いくらで売ってくれという誘いが引きも切らず、
生活に困った時などには大いに役立ったものだ。
さすがに今では髪を切り売りするほどの貧困とは無縁だが、
それでも赤毛は彼にとって自身を象徴するものだったので大切には違いなく、
赤毛のタークスと言えばレノの代名詞になっている程だった。
そんな赤毛ばかりが目立ってはいるが、彼の特徴はそれだけではない。
癖のある喋り方や、やや病的ではないかと思うほどの痩身、
飄々とした態度からは想像がつかない猛々しさを備えた性格など、
あくの強いタークスの中でもレノは異彩を放つ存在だった。
それは主に悪評を伴ったものだったが、裏家業が専売特許のタークスとしては
正しい在り方なのかもしれない。
それでもレノは世評とは裏腹に良い先輩だというのがキーラの見解だった。
彼女がタークス入りしてから一年あまりの月日が過ぎようとしている。
その間、何度かレノと組んで仕事をした事があるが、彼は指導者としても
なかなか優れた人物だった。
右も左もわからなかったキーラにタークスとしての基礎を叩き込んだのも、
軍事学校で教わった型道りの戦術しか知らなかった彼女に実戦でのノウハウを教えたのも、
すべてレノだった。
命の危機を救ってもらったことも一度や二度ではない。
あまり他人には関心のない風を装いながらもその実、周囲へ向ける視線は鋭く、
人物を見抜く洞察力に優れているので人を見誤らない。それは優秀なタークスと同じくらい、
優秀な教師の資質でもあり、キーラは十二分にその恩恵を受けていた。
だからレノには感謝をしていた。少しくらいの無理な頼みだったらきいてやりたいと
思うのにはそういった下地があった。実際、発覚すれば始末書ぐらいではすまない事にも
何度か協力してきた。
だがキーラにも譲れない線はある。
「レノさん、何をしたんですか?」
「人聞きの悪いこと言うなよ、と」
「じゃあ何もしてないんですか?」
返事の代わりに視線を逸らしてぶつぶつぼやき始めたレノに、キーラは眉を寄せる。
よくよく聞いてみると、何もしていないには違いないだの、あれは事故だっただの、
傍から聞けば言い訳にしか聞こえないような事ばかりだ。
もう、帰ろうとしていたのにと、窓から魔晄の緑に照らされた夜景を見るにつけ、
あからさまに態度の怪しいレノを呼び止めた己の浅はかさが悔やまれた。
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