「悲劇的(下)」本文サンプル






 薬だよ、と声がする。薬がどうかしたのかと聞き返すと、 ちょっと眠くなるような薬も中和剤に混ぜてあったんだと返事が帰ってきた。 中和剤?何を中和するというのだろう。すると声は少し困ったような口調で、 暴れないようにするためじゃないかなと答えた。何だよ、暴れるってとクラウドは笑った。 人を動物みたいに言わないでくれよな。
 そして唐突に意識は覚醒レベルまで引き揚げられた。
 勢いよく身を起こす。目に入ったのは白い壁と簡素な家具しか置かれていない室内だった。 ここはどこだ。
「まだ寝てた方がいいぜ」
 近くから聞こえてきた声に顔を上げるとザックスと視線が合った。
「オレの部屋。連れてきたんだ。どうせここまで来るつもりだったろ?」
 しばらく考えた後、そういえばそうだったと思い出した。周囲を見ると、 確かにそこは以前に来たことのある部屋だった。セフィロスの部屋よりは狭いなとぼんやり考える。 それでも十分広い。ソルジャーの特権だと思った。
ここは安全な場所だという安堵と深い疲労感から、再び自分が占領しているベッドに 崩れるように横たわった。記憶の本流がゆっくりとクラウドの意識領域まで染みこんできた。 だがそれは苦痛を伴うものであり、クラウドは片手で目元を覆い小さく呻いた。
「あれからどうなった?」
 しばらく躊躇った後で、ザックスは答えた。
「オレはおまえをここまで連れてきた。タークスは襲ってきた奴らを引っ張っていったけど、 たぶんそいつらはフリーの傭兵だから何も知らないと思う。それからのことはオレにはわからない。 時間はまだ半日も経っていない」
 顔を上げて窓を見ると外はまだ暗かった。夜明けまではもうしばらくあるのだろう。 体は錘でもつけられたように重く、腕一本持ち上げるのも億劫だった。
 クラウド、とザックスは声をかけてベッドの縁へと腰掛けた。真上から覗き込むようにして ザックスがクラウドの顔を正面から見ると視線が絡んだ。青い瞳。ずっと憧れていたソルジャーの瞳。 いつ見ても宝石のようにキレイだと思った。
「キーラは無事でいるさ」
「オレもそう思うよ」
 素直だなと笑うザックスに、クラウドもつられて小さく笑った。少しずつではあったが、 薬でぼんやりとしていた頭が鮮明になりつつあった。
 ザックスの言う通り、キーラは無事でいるだろう。そうでなければ意味がない。
タークスは宝条と交渉を終えたのかとクラウドは考えた。元々彼らと宝条は対立関係にはない。 シンはキーラが殺されたのではなく拉致されたと言った。殺せる人間を殺さないのは、 取引の道具にしようとしているからだ。つまり彼らは互いに交渉を望んでいる。 だからタークスはクラウドの拉致を未然に防いだ。それはキーラを助ける見込みがあるからこその 行動だ。何故なら何も進展がないのであれば、クラウドを助ける必要はない。 むしろ誘拐させておいて居場所でも突き止めた方がいい。そして、交渉はまだ終わっていない だろうと見当をつけた。宝条の立場からすれば、自分のやることに口出しをするなという条件は 最低限つけてくるに違いない。ということは、交渉が終わった時点で彼らがクラウドを助けることは 出来なくなる。
 しかしどうしてタークスがオレのような一般兵の安否を気にかけるのだろう。 キーラに頼まれたからだろうか。だが、そんな理由で組織が動くものなのか。 まさか正義感からということはないだろうに。そこだけが、 どうも納得がいかないとクラウドは思った。もしかして以前セフィロスが言っていたことと 何か関係しているのだろうか。確か、クラウドには利用価値があるとか。 でもオレにどんな利用価値があるっていうんだ‥‥?






 やはりこー‥クラウドを探偵役にするというのは無理があったよーな(今更!)