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米英短編   





『おまえは俺が守ってやる』
 そう言いながらアルフレッドを抱きあげたアーサーだったが、実際のところは、そう言った彼自身も微かに震えているのだった。怖いのだろうかと考える。きっと怖いのだろう。それでも決して彼は自分を見捨てることも手離すこともなかった。もちろん、裏切ったりもしなかった。
 それをしたのは全部俺の方だった。見捨てて、繋いだ手を振り払って、手酷く裏切ったのはすべてアーサーではなく、アルフレッドの方だった。
 罵られ、恨まれるだろうと思った。予想通り、彼は激昂し、あらん限りの悪口雑言でアルフレッドの裏切りを面罵した。だが、そういったことはすべて覚悟していたことで、今更驚いたりはしなかった。
 驚いたのは彼が泣いたことだった。いつだって彼は強く、プライドが高い人だったから、あんな風に人前で感情のままに、みっともなく泣きだすなんて思わなかったのだ。雨に打たれて泣きじゃくるアーサーは、自分が知っているどんな彼よりも小さく弱く見えた。
 アルフレッドは自分の立場も忘れて思わず言いそうになった。
『泣かないで。こんどは俺が君を守るよ』
 馬鹿なことだ。彼をそこまで追いつめ、傷つけたのは、他でもない俺だというのに。

 今でも、アーサーは雨の日になると、とても不機嫌になる。
 また困ったことに、イギリスには雨が多い。つまり不機嫌になる日が多いわけだ。今日も、じっとソファーに横になりながら、しかつめらしい顔をしたまま、じろりと視線だけでアルフレッドを睨む。不機嫌も最高潮といった風情だ。
「…何の用だ?」
 何だっていいだろう。用がなきゃ来ちゃいけないのかい。君に会いに来た。雨宿りにね。ちょっとした用事のついで。
 色々言葉を考えてはみたものの、どれも口にはせずに、ちょっと困った顔をして首を傾げてみた。アーサーは軽く舌打ちして、いつまでもガキみたいな真似してんじゃねぇよと悪態をついた後で、無言で立ち上がってキッチンへと向かった。
 きっと紅茶を入れてくれるのだろう。運がよければデザートはない。悪ければ死ぬほどまずいスコーンがついてくる。今日はどちらだろうかと考える。
 ああ、どちらでもいい。本当はそんなこと、大した問題ではないのだ。
 結局のところ、アーサーはそうやって、切り裂かれたまま、今なお痛みを訴える傷口と向き合い、ゆっくりとではあるがアルフレッドという存在を認めようとしている。裏切って都合の良いことばかり言い出す俺を、こちらが呆れるほどの寛容さで受け入れているのだ。
『う…撃てるわけねーだろ…ばか』
 脳裏に蘇る声。彼はきっと初めからわかっていたに違いない。自分が撃てないことを知って、それでも銃を手にしたのだ。どんな気分だっただろう。辛かっただろうか。悔しかっただろうか。どちらもあったのか。あるいは、どちらもなかったのか。わからない。たぶん、一生俺にはわからないままだ。
 でもね、アーサー。俺はもう子供じゃないんだよ。君の背も追い抜いたし、力だってある。やろうと思えば何だって出来るさ。そう、ヒーローにだって悪役にだって、俺は俺の好きなものになれるんだ。だからもう君に守ってもらう必要はないんだよ。
 けれど知っている。必要があるとかないとかそういうことではない。それが事実かどうかも関係ない。無駄とか無意味とか、そういう価値観など端から無視して省みない。アーサーの行動は彼自身がそうしたいと思っていることだけが根幹なのだ。だから、未だに彼はアルフレッドを守っているつもりでいる。
 そして、おそらくそれは俺にとっても必要なことなのだ。







「倉庫掃除」の話はじわじわとくるものがあるよ。ぐっときてきゅうとなる萌えみたいな。
( 2007.09.29 )