「 愛を込めて 」






 突然、本当に何の前触れもなくファンタジックな場面から覚醒して、 リアルな世界に突き落とされる。心地良い場所とは違った何もままならない空間に放り出され、 泣きそうなほど心細くなる。
 夜中にふと目が覚めるのはそういう感覚だと思う。
それが夢なら、たとえどんな悪夢だったとしても不利益なことはない。
何故ならそれはどれほど辛くとも自分の内側のものでしかないのだから。 内面的に包括しているものならどんなことだって耐えられるだろう。

 現実に比べたらもう、それは本当に優しいものでしかない。



 普段より肌に感じる温度に寒さを感じてヤマトは眠りから覚醒した。 時計を見ると明け方の5時をさしている。 隣を見ると気持ちよさそうに布団を独り占めして眠っている太一が薄暗い部屋の中に見えた。
「‥‥‥‥‥‥」
 誰にも渡さないとでも言いたげにぬくぬくと暖かい布団に包まってる彼を無言で蹴飛ばす。 ベッドから音をたてて転げ落ちた太一は転がった先で小さな呻き声をたてた。 その様子に罪悪感を覚えないでもなかったが、 寒さと、先だっての行為の気だるさには勝てずに再び眠りに入るために瞼を閉じた。
「‥‥わっ!」
 急に素肌をまさぐる手の感触に思わず声を上げる。 見るといつの間に復活したのやら、太一が人の悪い笑みを浮かべながら ____________________ もちろん闇の中なので太一の表情までは見えるわけはないのだが、 絶対にそうだという確信があった ____________________ ヤマトに触っていた。
「へへー、オレを邪険にするからだ」
「はっ、離せよ!」
 腕や足をぺたぺたと触られると、それはもう嫌がらせ以外の何ものでもなかったので ヤマトは今度こそ容赦なく太一を蹴り上げようとした。
「えっ‥‥」
「通じるかってーの」
 足首をつかまれて2人してベッドへ倒れ込む。 抑えつけられるような格好になったヤマトは憮然とした表情で太一を睨みつけた。
「どけよ、重い」
「やだ。こうしてる」
「ふざけんな、眠れないだろうが!」
「いいじゃん、眠らなくても」
 声に悪戯っぽい響きを感じてヤマトは掴まれたままの足首や、 裸同然の自分の格好を思い出した。
「おっ、おまえまさか‥‥‥」
「据膳食わぬは何とやらって言うだろ?」
 思わず、もう食っただろうが!と突っ込みを入れそうになったが、 さすがにそんな恥さらしな台詞は言えずにぐっと飲み込む。
「太一、今日は学校がある‥‥‥」
「うん、オレもある」
 だったら、と説得しようとする前に太一がぎゅっとヤマトを抱きしめた。
「でもさ、ずっとこうしてたいよ‥‥‥‥‥だってオレ」
 後の言葉はいつも通り。
彼には似つかわしくない囁くように言われた台詞に急に抵抗力をそがれる。 結局そういうことなのだ。現実的なことのすべてよりもたった一つの想いを優先させてしまう。
 自分も、彼も。
言葉とか、そういったものだけでは足りないと思ってしまって、 まだ約束を交わすだけでは不安なココロがある。 身体も心も一時的なものでしかないとわかっていたが、 それでもそんなものを欲しがる程度に自分達はまだ子供だった。
「ヤマト?」
 触れても何の抵抗もしないヤマトが珍しく太一は声をかける。
「もう、好きにしろよ」
「‥‥‥怒ってるのか?」
 呆れた声音に怯えたように太一が聞き返してくる。 普段のふてぶてしい態度とはまるで違うその態度にヤマトはため息をついた。
「お前なんて、何言ったって聞きやしないんだから好きにすればいいさ」
「‥‥‥‥‥」
「勝手で強引で、嫌になるよ」
 触れた部分がビクリと振るえるのが分かる。
「でもしょうがないよな。だってオレもさ‥‥‥」
 同じ言葉を。
先に彼が言った言葉をまったく同じ意味を込めて返した。 トクン、と触れ合った部分が大きく音をたてたような気がしてヤマトは照れながらそっと笑う。 少し恥かしいような、少し嬉しいような、それは太一にしか見せない種類の笑顔。
 ぎゅっと抱きしめられたので、自分も太一の背に腕を回す。
暖かいぬくもりにヤマトは目を閉じ、後はもう言葉通り太一の好きにさせることにした。



 そういえば、昔は夜中に目覚めるのを怖がっていたということをヤマトは思い出した。
まだ両親が離婚して間もない頃は特に。
起きて、目覚めた後の世界はまるで闇でしかないと思っていた頃があったのだ。
 もし、誰かがまだそこで怖がってるのなら教えてやりたいと思う。今なら教えられると思う。
そうだよ、辛いことばかりではないんだよ。
優しいことだけではないけれど、苦しいことも多いけれど、それだけじゃない。
 自分にもそうやって教えてくれた人物がいた。きっと誰にでも、そういう人がいるものだと思う。


だから怖がらないで

今ならはっきりと確信をもって言えるその言葉を伝えたい
誰もが幸せになれるように


愛を込めて








 突発で書くものはあまり何も考えないで書いているのでラブいだけのが多いデス。



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