「 _______________________ そういうのがいい」
まっすぐ、射すくめるような視線で答えたヤマトに太一はふと見惚れた。
普段は照れ屋でそんな台詞は絶対口にしない彼だったが、
たまにこちらが照れるような台詞をいとも簡単に言ってのける。
それが本心から言ったものだということは良く分かっていた。
だからこんなにも幸せになれるのだ。
「何もやらないだって?」
思わず聞き返すとヤマトはちらりと視線だけで太一を見てコクリと肯いた。
変な顔で _______________ そんなのはいつものことだとヤマトは思った _______________
動作を止めたままの太一をしばらく眺めていたが、
すぐに持っていたベースで楽譜を追う作業を再開した。
彼らの他には誰もいない倉庫に弦を弾く音が反響する。
マンション住いのヤマトが周りを気にせずに練習出来るこの場所を気に入っているのを
太一は知っていた。だから家を訪ねて彼がいないと分かるとすぐにこっちへ足を運んだのだ。
_______________________ しかし
本当にいるとは思わなかった。だって今日は‥‥
「クリスマスなんだぜ?!」
「知ってるよ」
カレンダーを見たら書いてある、と答えるヤマトにそうじゃない!
と太一はキィキィいいながら地団太を踏んだ。
「クリスマスっていったら他に何かあるだろ、ほら、料理作るとか‥‥」
「いつも作ってるけど」
「違う、特別な料理。七面鳥とか!」
「そんなもの焼けるオーブンうちにはねぇよ」
「プレゼントとか!」
「この時期に買うと高い。オレはクリスマス商戦には乗らない」
「オレとのデートとか‥‥‥」
「こんなどこも混んでる時に好き好んで出かけるやつの気がしれないね」
すべての問いに殺伐とした答えを返すヤマトに太一はがくりと肩を落とした。
ヤマトがこういう性分だというのは知っていた。
知り合ってからしばらくしてそういう性格は把握していたから今さら驚きはしない。
_______________________ でもさぁ‥‥‥
太一とヤマトがこういう風に
_______________ 世間一般で言う「恋人同士」というやつに
_______________ なってから初めての
クリスマスだった。太一としてはもう少し何か特別な日にしたいと思っていたのに。
つれない恋人に恨みがましい視線を向けると、ヤマトは完全に無視を決め込んでいた。
よどみなく動く指がこんな時でなければ賞賛に値するであろう旋律を奏でている。
ヤマトがまるで相手をしてくれないと分かると太一はその場に座り込んでぶちぶちと
嫌味ったらしく文句を言い出した。初めはクリスマスの存在意義について、
そして最後には今日の天気についてまで。
とにかく何かに文句をつけていなければ気がすまなかった。
だがそれでもヤマトは耳を貸すわけでもなく弦を弾いていた。
その音は相変わらずキレイで自然に聞こえる音色だった。
だから太一はヤマトの弾いている曲がいつもと違う特別な曲を
奏でているということには _______________ 甘い恋のウタを奏でているということに
_______________ まったく
気付かなかった。
「そりゃあおまえはクリスマスは楽しみじゃないかもしれないけどオレは‥‥」
「誰もそんなこと言ってない」
長々と続いていた文句をヤマトが遮る。
ため息をついて手を止めると他に音のない倉庫は静かになった。
「じゃあ、楽しみにしてんのかよ?」
拗ねた口調で言う太一の問いには答えずにヤマトは手にしたベースをそっと床に置き、
スタスタと倉庫の入り口まで歩きだした。ちょっと待てよ、
という太一の制止にも一切耳をかす素振りを見せない。
扉のところまで来ると、半開きだった扉をガラガラと音を立てて閉めた。
最後にガタンと音がしたのでヤマトの影になって手もとが見えなかった太一にも
彼が鍵を閉めたのだということが分かった。
「太一は来ると思ってた」
ぽつり、とヤマトが呟く。
小さな声で、だがはっきりと。
くるりと振り返ると今まで浮かべていた皮肉そうな表情から、
いつも太一が見る穏やかな表情を浮かべていた。
「太一は絶対来ると思った。だからオレはここにいた」
「 _______________________ ヤマト」
ゆっくりとヤマトの側に寄る。
そっと頬に手をやると元から大して暖かくもない場所にいたせいかすっかり冷たくなっていた。
こうしていると呼吸まで共有しているようだと太一は思った。
触れている場所は少しだけなのに、全身でヤマトの鼓動を感じる。
「ヤマトも楽しみだった?」
今日を、この日を。
口付けを交わす。
触れるだけにしておいたのは答えを聞きたかったからだ。
ヤマトの声で、ヤマトの言葉で彼の想いを聞きたい。
「楽しみだよ。理由が出来るから」
そこで一度言葉を区切る。伏し目がちだった視線を太一に合わせるとヤマトはふわりと微笑んだ。
「大切なヒトと‥‥‥おまえと一緒にいられる理由が出来る」
「 _______________________ そういうのがいい」
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