投げ出された四肢。
死んだように身動きひとつ立てない身体。
いつも行為の後というのはそんなものだった。
意識のないヤマトの髪に手を絡めると、小さな震えが伝わった。
「‥‥‥起きてるのか?」
返事はない。だが、相変わらず震えたままの身体は彼がすでに覚醒状態にあることを示していた。
覆い被さるように身体を重ねて首筋に口付ける。
「‥‥‥太一」
何かを言いたげに口を開いたヤマトだったが、
結局かすれた声で太一の名を呼んだだけですぐにぐったりと横になった。
思えば初めての時からヤマトはずっとこんな風だった。
特別な意味を持った互いの心を持て余して行為に及んだ時からずっと。
拒絶するわけでもない、受け入れるわけでもない。
ただ与えられた行為だけを微かなためらいと共に繰り返しているだけだった。
首筋にあてていた唇を胸元に移す。同じ個所を何度も愛撫するとヤマトが吐息を漏らした。
初めに欲しかったのは何だったのだろう。
太一はふと考えた。少なくともこういった身体を重ねることは二次的なものであったはずだ。
もっと何か他のものを求めていたのだと思う。
_______________________ ああ、でも
もしかしたらそれはもう手に入らないものなのかもしれない。
何もかもが酷いことだと。
そのことを自分は知っている。
たぶん、こんな身勝手な自分に関わらなければ壊れることもなかった
キレイなモノを壊してしまったから。それはきっと許されないことだろう。
昔、まだ誰かを特別に好きになったりすることを知らなかった
頃 _______________________ そんな時が自分にあったとは
今では信じられないことだが _______________________ それでも
確かにあったその幼い幻影で太一は何か大切なものを持っていたような気がした。
それは今とは違う純粋なものだった。
いつから自分はそれを手放してしまったのだろう。
前触れもなく身体を離すとヤマトが不思議そうに太一を見上げた。
視線を合わせると不安げな色を含んだ蒼色の瞳が太一を見つめている。
「どうして‥‥」
今だ震える身体をゆっくり起こしながら、太一から一度も視線をそらすことなく
ヤマトは太一に向かって問い掛けた。
「_______________________ 何?」
質問の意味が分からず、太一は首を傾げる。
それを聞いたヤマトは少し困ったように瞳を揺らした。
しばらくはそうやって見つめあっていたが、ふいに太一の頬に両手をあてた。
包み込むように暖かな体温が太一に伝わる。
「どうして泣いてるんだ?」
頬に当てられた手が雫をすくう。
ヤマトの指先を濡らしたそれを見て、やっと太一は自分が泣いていることに気が付いた。
同時に。
自分が何に悲しんでいるかも自覚した。
止まらない涙はそのままに、太一は深く項垂れる。
「なあ、ヤマト」
癖のある金糸に指を絡める。さらさらとした手触りが心地良い。
それがまた心にずきずきとした痛みを呼び起こして太一はまた辛い気持ちになった。
「もしかしたらオレはもう駄目なのかもしれない」
ずいぶんと口にするのを躊躇っていた言葉が何故か簡単に出てきた。
これ以上言ってしまえば終わりになると思い、それでも止めることが出来なかった。
自分の頬に当てられた暖かな手。
生きていることを実感させられる体温。
金糸のような髪。
すべてが太一の心を虜にし、今までにない程幸せな気分を呼び起こし、
引き換えの様に激しい罪の意識を残していった。
「たぶん、そうなんだ。強くあることも出来たけど、それを放棄する方を求めてしまったから。
でもオレはそれを後悔していない」
_______________________ そうだ、後悔などしていない。
「ただ、それを選ぶことで他のモノ‥‥‥オマエとかさ、
そういう本当は何があっても守らなくちゃならなかったモノを壊してしまったのが辛いんだ」
壊してはならないものがあった。
側に居て、一緒にあって、大切にしていかなければならないものがあった。
自分にはそれが分かっていたはずだったのに。
だからきっと自分はヤマトの側にいる資格なんてないのだろう。
そんな資格なんて‥‥もうずっと昔から自分には‥‥‥
「太一」
ヤマトが太一の頬に触れた手を首に回し抱き寄せた。
「他の誰かのことは知らない。太一の言う通り壊してしまったモノだってあるんだろう。
でも‥‥‥」
背に回された腕に力がこもる。
「オレは選んだよ」
耳元に当てられた唇が囁くように、だがしっかりとした声音で太一に想いを告げる。
「オレは太一を選んだよ」
もう一度、その静かな心の奥に染み入る声を聞きながら、太一は自分を卑怯な人間だと思った。
そういう風に言えばヤマトがどんな答えを返すかを分かっていたから。
震えて怖がって、現実に怯えながら、それでも太一を必要としている相手から、
ただ望む答えを引き出したかっただけだった。
_______________________ だからオレは卑怯者だ
それは多分、真実に近かった。
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