なるべく、熱を外へ逃がさないように追い立ててやると、痙攣するように身体が震えた。
その反応に気を良くしたシリウスは再びジェームズを追い詰め始めた。
下肢に手をやり、好きなように煽る。しだいに乱れる呼吸で彼の限界を見てとると、
唐突に一切の刺激を引いた。
「ジェームズ」
呼びかけると固く閉じられていた瞳がゆっくりと開かれた。
焦点が定まらないままの視線を強引に自分に向けて唇を重ねる。
深く差し込むようにして内側を蹂躙すると、初めはされるがままだったジェームズも
次第に舌を絡ませて答えてきた。
「今日はやけに焦らすんだな‥‥」
唇を離すとジェームズが荒い息のままでシリウスを見上げた。
問いかけには「そうか?」とはぐらかした答えしか返さず、今度は触れるだけの口付けをする。
もう彼がそんなものでは満足しないことを承知の上で、そればかりを繰り返した。
もっと深い快楽を得ようと自分から求める行為を遮り、口付けと同じ緩やかな愛撫しか与えない。
しばらくしてようやくシリウスの意図に気付いたジェームズは呆れたようにため息をついた。
「仕返しか‥‥根暗なヤツ」
「‥‥言ってろ」
どれだけ欲しがっても、そう簡単には与えるつもりはない。
投げ出されるようにして横たわった体に覆いかぶさると、ジェームズが小さく声を漏らした。
こういう事態も予想しなかったわけではなかったが、実際にされると案外耐え難いものだ、
とジェームズは他人事のように思った。シリウスはいつも、
どちらかといえば自分の望む通りに事を運んでくれるので、不自由な思いをすることの方が少ない。
だから、こんな風に焦らされるのは苦手だった。
「‥‥あっ」
ゾクリと体が震える。自分の上にかかる彼の重みがこれから始まる行為の予感を呼び起こさせて
無意識のうちに声が漏れた。うっすらと汗ばんだ髪を梳くようにして掻き揚げられる。
その手がひんやりと冷たかったので頭を摺り寄せると額に優しく口付けをされた。
だが自分が欲しいものはそんな穏やかなものじゃない。
もっと、自分を見失うほどの激しいものがいい。なのにそれはいつまでたっても与えられないままだ。
「んっ、ぁ‥‥あ」
口を使って直接触れてやるとジェームズは何度も間欠的に声をあげた。
シーツを固く握り締めて絶え間なくおとずれる感覚に溺れている姿は、
日常の彼からは想像もつかないほど扇情的だった。
繰り返し押し寄せる高ぶりを上手くかわしながらシリウスは愛撫を続ける。
「っ‥んっ」
緩急をつけた刺激は、焦らされた体には辛いらしく、時折苦しげに声を上げる。
思わずそのまま彼を抱きたい衝動にかられたが、ギリギリのところで抑え込んだ。
もうどれくらいそうしているのか、シリウス自身にも判断できないほどに時間がたった。
ひどく長い時間に感じられるが、案外そうでもないのかもしれない。
だが自分以上に欲望に忠実なジェームズにとってはそれこそ1分1秒が
果てしなく長く感じられるに違いない。
ジェームズと何度か体を重ねてみて分かったことだが、彼は我慢するということをしなかった。
体も心もいつも勝手で気まぐれだった。だがそれは裏を返せば自身に従順だということだ。
余計なしがらみに縛られることもなく思ったままに行動する姿がシリウスには眩しく、羨ましかった。
だからいつもなら彼と同じ熱に浮かされることを望むのだが、
今日はそんな穏やかな気分にはなれない。
一度知ってしまった心と、行為と。それを放っておかれた悔しさと心細さが。
子供だと言われるかもしれないが、少しでも彼に理解させたかった。
その結果がこんな風に追い詰めることだとしても、
それ以外にどうしたらいいのかシリウスには分からなかった。
休むことなく与えられる刺激と、
決して終わることのない行き場のない熱がジェームズの内側で暴れだす。
脚を掴まれ下肢を口で触れられて自分でも分かるほど上擦った喘ぎを繰り返した。
腰を浮かせて先をねだるが与えられる気配はない。
行為自体は優しいはずなのに焦りと苛立ちばかりがつのる。
こんな瞬間は。
自分から求めたはずの行為なのに、ひどく身勝手で乱暴なことをされているのではないかと思う。
自分はただこうして抱かれるためだけに必要にされているのではないかという考えが脳裏を過る。
___________________ でも‥‥
もし、そうだったとしても。あるいはこれから先、そういうことになったとしても。
きっと自分はそれを全く構わないと思うことをジェームズは自覚していた。
たとえ何でも、それが体だけだとしても必要とされるならそれでいい。
大切だと、彼は言うけど。それを疑ったこともないけど。
もう、僕はそれだけでいい。
「 ___________________ 」
小さく掠れた声でジェームズが何かを言った。それを何度も繰り返す。
聞き取るために彼を抱きしめたシリウスの耳にようやくその単語が入ってきた。
途端にカッと体が熱くなる。その言葉の意味を知って、
それをおそらくは無意識で呟いている事にどうしようもなく切なくなった。
抱きしめた腕を緩めてジェームズを見ると、彼は小刻みに震えながら涙を浮かべていた。
たぶん、それは生理的なもので、自分が考えているような感傷的な涙ではないだろう。だが、
___________________ それで十分だ
涙声で何度も自分の名を呼ばれてまともでいられる理性など、シリウスは持ち合わせていなかった。
どこにあるのか分からない意識を現実に引き戻される。
解放されない熱を持ち続けた体はさっきから震えが止まらず、
これではまるで病人みたいだとジェームズは思った。
シリウスに視線を向けると彼は何やら考え込んだ様子でこちらを見ている。
「‥‥悪かった」
何が、と聞き返す間もなく下肢に触れられ、鼓動が跳ね上がる。
再び意識が混濁しそうになるが、言葉の持つ意味に気付いて何とか繋ぎ止める。
「っ、はやく‥‥」
腕をまわしてシリウスに縋り付く。またはぐらかされるのかもしれないと思ったが、
彼が自分の背に手をまわして体を固定するのを見てようやく与えられるのだと分かった。
脚を開き慣らすように指で触れられたので、そんなことはいいからと先を促す。
確認するようにシリウスが額に口付けるのを縋り付く腕の力を込めることで了承すると、
自分の意図はすぐに伝わったらしく、そこからは一片の躊躇いもなくシリウスはことを進めた。
「 ___________________ あぁっ‥‥」
声を殺すことも忘れて喉を震わせる。何度も行なってきた行為とはいえ、
さすがに初めの衝撃だけは慣れない。頭の奥まで響く痛みの残滓にじっと耐えていると、
その間だけはシリウスも宥めるような愛撫をおくるだけだった。肩で大きく息をして呼吸を整える。
しだいに慣れてきた彼の存在に今度は苦痛以外の感覚が滲むように湧いてきた。
「‥‥んっ」
ゆっくりと体を動かされる。ひきつるような痛みは未だ消えないが、
際限なく溢れ出る快楽に狂った様に酔った。内側をさぐるようにかき回されて
たまらず涙が零れ落ちる。だがジェームズは自分が涙を流したことにも、
それをシリウスがそっと舐め取った事ことにも気付かないほどだった。
途切れがちに聞こえる自分の声と、彼の荒い息遣い。
動かされる度に交わった部分から快楽が呼び起こされて体中の熱が上がる。
「あっ、あ‥‥ふぁ」
散々焦らされたせいか、いつもより限界が来るのが早い。
これで終わりにしたくないという気持ちと、早く最後までいきたいという気持ちの狭間で揺れ、
もう考えることすら億劫だった。すでに縋り付く力もなく、
与えられる刺激だけに反応する体は自分のものではないようだ。
両手を掴まれ、体をシーツに繋ぎ止められる。シリウスの長い黒髪が自分に触れ落ち、
その刺激にすら体を震わせ過剰に反応してしまう。
「 ___________________ ジェームズ」
呼ばれて顔を上げると、ひどく真剣な表情でシリウスが覗き込んでいた。
乱れた呼吸も、上気した頬も、自分と同じものだったので、
やはり彼も気持ちがいいものなのだろうかと考えながら彼の視線を受け止める。
「もう一度、オレのことを呼んでくれ‥‥」
熱っぽく耳元で囁かれる。
もう一度、と言われても前にも呼んだのかどうかジェームズ自身は覚えていない。
だが途切れがちの意識のせいで記憶が定かではなかったので、
もしかしたら彼の言う通りなのかもしれなかった。
___________________ そうだとしたら、
この意外に感傷的なオトコにはきっと何より堪えたのだろう。
「 ___________________ シリウス‥‥」
望み通り相手の名を呼ぶと、掠れた声しか出なくて自分でも驚いた。
しかし、それを聞いたシリウスが優しく口付けを落としたので彼がそれで満足したのだ
ということが分かった。
もう何の抑制もなく、シリウスはジェームズを抱いた。声も出ないほど何度も突き上げられ、
力の入らない体をシリウスに預けたまま与えられる衝動に翻弄された。
そうやって体が内側から焼かれるのを感じながら、ジェームズはただひたすら最後の時を待った。
隣でぐっすりと眠るジェームズを見ながらシリウスはその癖のある髪を指に絡めた。
何度か梳くとくすぐったいのか小さく身をよじる。まだ残っている涙を指で拭い取り、
熱の治まったばかりの体に重みをかけないように覆いかぶさった。
肩口に顔を埋めて全身で彼の存在を確かめる。
「 ___________________ 大切なんだ」
誰よりも、何よりも大切に思っている。
思うままに縛りつけたい身勝手さも、自分を忘れなくなるほど滅茶苦茶にしたい残酷さも、
全部含めて、それでもなお大切だという気持ちの方が勝っていた。
体も心も束縛されて、自由でありたいと望んだはずなのにいつの間にか
拘束されることを受け入れてしまっている。それなのに後悔はしていない。
他の誰にもこんな想いは抱けない。
まるでどこかがおかしくなってしまったみたいに
___________________ オマエしか大切じゃないんだ‥‥
「僕もだ」
ぎょっとして身を起こすと、ジェームズもゆっくりと起き上がった。
伏せられた目を上げてシリウスと視線を絡ませる。
彼らしくない穏やかな笑みにシリウスは戸惑ったが、
返された台詞の意味に気付いてジェームズをまじまじと見返した。
「本当か‥‥?」
「 ___________________ 冗談にきまってるだろ」
抑揚を全く変えずに返された言葉にシリウスは間抜けだと自分でも
はっきり自覚できる表情をとってジェームズを睨んだ。
「‥‥‥おい」
剣呑な声を出すと掠れた声でジェームズが笑った。
文句を言ってやろうかと思ったが、疲れの残る表情が思ったより
ずっと痛々しかったので強引に彼をシーツに押し付けて毛布を被せた。
「もうオマエは何も喋るな。寝てろ」
不貞腐れたようにそれだけ言ってジェームズに背を向ける。
まだ背後で、からかうような笑い声が聞こえていたが、しばらくすると
「そうするよ」と小さく返事が聞こえ、すぐに小さな寝息にかわった。
冗談なんかじゃないんだろう、と。
そう問い詰めたらジェームズは何と答えたのだろうか。
しかし答えを聞きたい反面聞きたくないという気持ちがある事も否めない。
自分は案外今の関係が気に入っているのかもしれないと思い、シリウスは自嘲気味にため息をついた。
そして、それこそがまさに隣で眠っている人物にも共通の悩みだということには、
結局最後まで気付かないままだった。
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