「 彼の場合 」





 人体というものは体に張り巡らされた無数の線のようなもので構成されていて、 その一つ一つが体のどこかで繋がっているのではないだろうかとジェームズ・ポッターは考えた。
 想像するに、支柱のような大きな線の束が体の中心にあり、 そこから枝分かれするように手や足に神経が分化しているのだと思う。 それぞれの先端は独立した糸のように普段は交わることはないが、 たまに間違って違う線に絡まってしまうことがある。 だから怪我をした場所とは全く違う場所が熱を持つことがあるのだろう。
 クィディッチの練習をしている時にはたまに経験することだった。 夢中になってスニッチを追っていると、うっかり利き腕ばかりを酷使してしまうことがある。 腕が痛いと自覚すると同時に何故か使ってもいない足先などが 熱を持ったりしていることがあった。そういう時はたぶん糸が絡まっているのだと ジェームズは思った。独立していた糸が何らかの拍子で違う場所と絡まってしまい、 関係のない箇所までつられて熱くなってしまうのだろう。
 今の状態もそれに似ていた。


「‥‥ジェームズ」
 名を呼ばれるのと体内に潜り込んだ熱を突き上げるように動かされるのが同時だったので、 ジェームズは返事の代わりに小さく声を上げた。たった今、彼の熱を内側で受け止めたばかり だというのに、それはもう熱を取り戻していた。
「っん‥シリウス‥‥あぁ‥」
 繋がった場所が熱く脈打つ感覚に総毛だった。 際限ない快楽を感じる自分の身体にジェームズは軽い恐慌状態に陥り、 身をよじって逃げ出そうとしたが両手で腰を掴まれたままなので思うように動けない。
「逃げんなよ、まだ一度しかしてないのに‥‥」
 表情の欠落した酷薄そうな顔で笑うとシリウスはゆっくりと動きを再開した。
「あっ‥ぁ、あん‥‥」
 先だっての激しい動きとは違い、緩く存在を確かめるように動かされる。 緩慢な刺激には我を忘れて没頭することも、意識を手放すことも出来ない。 間欠的に漏れる自分の声は情欲で濡れている様が生々しく感じられ、 居たたまれない気分になったが翻弄されるばかりの身体では隠れることすらできない。
 視線を自分の左腕に移す。不思議とその部分が先刻から熱を持ちはじめていた。 特に動かしたり押さえつけられたわけでもないのに、じわりと内側から染み出すような熱がある。
―――― どっかで線が繋がってるのかな‥‥
 身体のどこか、たぶん、今シリウスと触れている部分のどこかと糸が絡まっているのだろう。 クィディッチの時と同じだとジェームズは考えたが、 行っている行為のあまりの落差に知らず知らずのうちに苦笑を漏らしていた。
 自分の考えに没頭していたジェームズは、シリウスの手が髪を梳くように差し込まれ、 掴まれた時にもすぐには反応を示せなかった。彼の触れ方はいつもシリウスが施すような 優しく慰撫するようなものではなく、ひどく乱暴なものだった。 訝しげな視線を返そうとした時には掴んだ髪を引っ張られる鋭い痛みで小さく呻いていた。
「い、た‥‥っ」
 シリウスは片手でジェームズの根元から掴んだ髪を容赦なく引っ張り 自分の顔の傍へと引き寄せると、耳元へ口を近づけ ジェームズがいつも安らかだと思うのと全く同じ声音で囁いた。
「またよけいなコト考えてるだろう‥‥随分余裕だな、ジェームズ?」
「 ――― っ、ん、‥‥ああっ!」
 緩慢だった動きのままかき回されるように穿たれた。 反射的に身体を仰け反らせようとしたが、髪を掴まれたままだったので 小さく身じろぎするだけに留まった。これ以上は無理だというところまで入り込むと、 シリウスは満足気にため息をついた。
「何考えてた?‥‥言えよ、ほら」
 髪を持つ手に力を込められジェームズは痛みで涙ぐんだが、 シリウスは一向に意に介さないまま答えを急かした。
「熱いから ――― 腕が‥‥キミと繋がっ‥‥繋がってるところ‥みたい、に」
 答えている途中から、密着させたままの身体を動かされた。 喘ぎで中断されそうになった台詞だったが、 答えを途切れさせれば今よりもっと酷い仕打ちが待っていることを知っていた ジェームズは、荒い息の下で何とか最後まで言葉を繋げた。
「どこ?」
 シリウスは一度考え込むように首を傾げると、 ジェームズが視線を向けていた腕に唇を付けた。 確かめるように腕の付け根から先端まで唇を這わせると、 ジェームズが熱いと思っていた箇所に口付けを繰り返した。
「 ――― ああ、本当だ」
 確かに熱くなってると言い、今度は髪を持つ手を離して両手で腕を掴むと 熱のある場所を執拗に慰撫しはじめた。何度も繰り返し飽きることを知らないように 施される愛撫にジェームズは喉の奥まで出掛かった言葉をかろうじで飲み込んだ。
 そんなところはいいから早く続きをしてくれ、と哀願したかった。 シリウスに触れられることは好きだったが、途中まで煽られた熱を放っておかれたまま、 快楽とは遠い場所を刺激されるのは拷問に近かった。繋がったままでいる身体では 暴れて腕を振り解くことも出来ない。時折体内にある熱が脈打つように動くのを 感じてその度に身体が震えた。シリウスはそれに気付かないわけでもないのに、 平然と腕への愛撫だけを繰り返した。
 喉の奥から小さく嗚咽がもれた。 自分の置かれた立場の不安定さと情けなさ、 そして何よりシリウスの常にない軽薄で冷たい態度に堪えきれずに涙が滲み始めた。 泣いているのを悟られたくないとは思ったが、こんな状況では隠すことも出来ない。 溜まった涙はとうとう線を描いて頬を伝った。
「‥ツライのか?」
 俯き加減にしたジェームズの顔を覗き込むようにシリウスが聞いた。 涙と眼鏡をしていないせいで焦点の合わない瞳をシリウスに向けると、 彼の瞳の中に初めて労わるような色が見えた。ジェームズはすがるような気分でコクリと頷く。
 シリウスは気遣うような気配のまま一度ジェームズの頬に手を当て、 流れた涙を拭った。その動作はいつもと同じ優しいものだったので ジェームズはほっとして息を吐いた。だが次の瞬間にシリウスはジェームズの 喉を片手で掴み勢いよくシーツの上へ押し付けると指先に力を込めて首を絞めた。 本気で殺されるのではないかと思うほど容赦のない力の入れように 息を吸い込むことすらままならない。 息苦しさに視界がぐらぐら揺れ始めた頃にようやく手を緩められた。 急激に空気を取り込んだ身体は何度も咳を繰り返して空気を取り込む。
「喋れるんだから言葉で答えろ」
 低く抑えた鋭い声が頭上から響く。 シーツにぐったりと横たわった身体に覆いかぶさったシリウスは、 咳を繰り返すジェームズの両腕を掴んで押さえ込み、これ以上はないほど残酷に答えを求めた。
「っ‥‥うっ」
「ほら、早く‥‥また苦しい思いをしたくないだろ?」
 打って変わった優しい声音で要求を繰り返す。 だが、押さえつけられた両腕には痣が残るのではないかと思うほどの力が込められ、 声通りの優しさなど微塵もなかった。
「 ――― っ‥ツライよ‥シリウスっ」
「苦しそうだな、可哀想に‥‥」
 シリウスの端整な顔にほんの少し哀れみの表情が浮かぶ。
「楽になりたいか?」
 楽に、というほどそこまでの過程は単純なものだけではない。 ジェームズにとって抱かれるという行為は決して快楽だけをもたらすものではなかった。 だが背徳的で痛みを伴う快楽は何ものにも変えがたい魅力があった。
「ラクにな、りた‥いっ」
「もっと、ちゃんと言えよ。‥‥なぁ?」
「ふぁっ‥!」
 前触れもなく深く突き上げられ、芯に響くような熱が全身を貫いた。 しかしそれはまだジェームズの望んだような激しいものからは程遠かった。
「あっ、ぁ‥頼むか、ら‥‥もっ、と動かし、てっ‥」
 なりふりかまわずシリウスに縋り付いて懇願するが、 シリウスはそんなジェームズの反応を楽しむように薄く笑っただけだった。 堪らず自分から押さえつけられた身体を動かし快楽を追い求めようとしたが、 シリウスは組み敷いた身体を押さえつける手に力を加え動きを許さなかった。
「 ――― もっとはっきりと‥‥」
 上から動きを制限され自分からはどうにも出来ない身体に、 シリウスはゆっくりとジェームズの焦燥を煽るように出入りを繰り返した。 濡れた音と乱れた息遣いが耳に残酷に響く。 涙の止まらない瞳で見上げるとシリウスの息も乱れ、顔には隠し切れない快楽が滲み出ていた。
 その時、ようやくジェームズは彼と触れ合っている肌がじっとりと汗ばんでいることに気がついた。 それは決して自分だけの熱さではなかった。互いに同じ熱を感じているのだと自覚すると、 じわりと心に暖かい何かが湧き上がった。 それは普段、彼と共にいる時に感じる感覚と似たものだった。 まだ互いに友人としての想いしかなかった頃も、今現在のように狂おしいまでに相手を 求める関係になってからも変わらず感じる一体感のようなものだった。
 ふいに彼の冷たい態度も、嗜虐的な仕打ちも気にならなくなった。 あっさりとそれまでの羞恥や躊躇いを捨てたジェームズはシリウスの ガラスのような瞳を戸惑うことなく見据えた。
「‥‥最後まで‥イかせっ‥」
 言葉の途中でシリウスが唇を重ねてきた。舌を絡ませ深く口腔を弄るが、 その口付けに酔う間もなくシリウスはジェームズの上から離れた。 何か彼の望むものに足りなかったのだろうかと不安が胸を過ぎったが、 シリウスはジェームズの足を抱え上げて開くと、躊躇いなく深く奥まで入り込んだ。
「あっ‥あぁ‥!」
「力、抜いて‥もう焦らさないから」
 ずっと欲しかった言葉に安堵したジェームズは言われた通り身体の力を抜いた。 繋がった場所が何度も経験した快楽に震える。 目を閉じて内側に入り込んでいる熱に意識を向け、深呼吸を数回繰り返した。
「シリウス‥‥」
 名前を読んだのはいつもの合図だった。 シリウスは小さく頷いてジェームズが望んだような熱を解放する激しい動きを始めた。
「あっ、‥‥あん、はっ‥‥シリウスっ!」
 待ち続けた熱はジェームズの全身を焼き尽くすような熱さだった。 このまま溶けてなくなってしまいそうなのにそうはならない。 そのことをジェームズはいつも不思議に思っていたし、彼と抱き合う度に考えることだった。
 こういう思考もシリウスのいう「よけいなコト」に入るのだろうかと思う。 シリウスはいつも、どういう風にしていても自分を見ていなければすまない性分だったので 嫌がるかもしれない。 だが、ジェームズはその束縛を嫌ってはいなかった。時に煩わしいと思うような束縛も、 彼の熱さや想いと同種のようなものだと知っていたからだった。
「‥ふっ、あ‥‥ふぁ、熱い、あつ‥‥い」
 イクと小さく呟くとシリウスはジェームズの前に触れ、緩急をつけた刺激を加えた。 直接的な快楽にジェームズはたまらず嬌声を漏らし、シリウスを締め付けた。
「ジェームズ‥また、中で‥っ、いい?」
 それは確かに身体に負担のかかることではあったが、ジェームズは一瞬の迷いもなく了承した。
 それもまたいつものことだった。
 シリウスが深くため息をつき、そして笑った。それはどちらかと言えば苦笑に近い笑みだった。 ドクリとジェームズの鼓動が鳴った。ジェームズはシリウスの人形のように造詣の整った顔や、 低音の染み入るような声が好きだった。好きな理由はそれだけではなかったが、 初めに惹かれたのは彼の外見的なものだったし、 それは今も変わらず彼を好きである要因だった。
 シリウスの動きが忙しなく、激しいものになった。互いの呼吸にも余裕がなくなる。
「 ―――― っ‥ああ!」
 全身を硬直させ、ジェームズはシリウスに身体を押し付けた。 彼の手の内で白濁した液を出すと、シリウスも小さく呻き熱を放った。 内側が穢される感覚にジェームズは弱々しい声をあげた。
 だがそれは決して嫌悪からではなく、むしろそれと全く逆の感情からだった。


「‥‥なぁ、ジェームズ」
「 ―――― うん?」
 ぐったりと横になったまま動かないジェームズの髪を手でなぶりながら シリウスは遠慮がちに声を掛けた。 いつもコトが終った後はジェームズは翌朝までぐっすりと眠ってしまうので、 彼が寝入る前に声をかけた。
 ジェームズは返事はしたものの、 身体を動かすのも億劫だったのか視線だけをシリウスに向けた。
「こういうの、オレ‥‥向かない」
 シリウスは苦虫を噛み潰したような表情を作った。実際彼の心情も似たようなものだった。
「そう?」
「‥うん」
 ジェームズは不思議そうな顔をしてシリウスを見た後に何で?と尋ねた。
「何か、その‥‥レイプでもしてるみたいで後味悪いっつーか‥」
 シリウスは決して好きな相手をいたぶって楽しむような趣味の持ち主ではなかった。 むしろ大切に優しく扱う方が彼の主義で、先刻までのような自分勝手な抱き方は シリウスの本意ではなかった。
「僕はすごく良かったけど?」
 屈託なくあっさりと言葉を返したジェームズにシリウスはがっくりと肩を落とした。 さんざん酷い目に合わされたというのに彼は全く堪えていないようだった。
 シリウスが彼らしくなく嗜虐的なやり方でジェームズを 抱いたのはすべて彼の要求だった。 シリウスとしてはいつも通り優しい行為にしたかったのだが、 ジェームズはたまには僕の意見も取り入れろと珍しく要求を突きつけてきたのだった。
 彼と肌を重ねるようになってから今日まで、ジェームズが何かを要求してきたことはなかった。 だからシリウスとしてもたまにはいいかと安易な気持ちで承諾したのだったが、 彼の要求の内容を聞いた時には軽々と頷いたことを激しく後悔した。
 ジェームズに被虐的な性癖があることはシリウスも薄々感づいていた。 ジェームズにとって痛みと快楽はほとんど同列にあるものだった。 極めてノーマルな感覚しか持っていないシリウスとしては初めこそ驚き戸惑ったものの、 彼のそういう被虐性が抱く方ではなく抱かれる方を好む性質の根源になっていると知ってからは、 むしろ彼の性癖を都合の良いものだと捉えていた。
 僕を憎んでるみたいにさ、いたぶりながら抱いてくれよ ―――― というのが彼の要求だった。 シリウスは当然断ったのだが、いつもいいようにさせてるじゃないかと言われると 反論できなかった。確かに彼がそういうやり方がいいというのなら何も問題はなく、 シリウスとしてもいつも自分に付き合わせているという罪悪感があった。
 しかし、彼の要求はシリウスの気持ちからは程遠く、出来ればこれっきりにしたかった。 だから彼にこういうやり方はもう二度と嫌だと言わせるように過剰なまでの嗜虐性で 彼を抱いたのだった。だからシリウスとしては「あれ」を「すごく良かった」 と言われるのは想像すらしていない事態だった。
「まぁでもさ、毎回こういう風だと大変かな?」
「そりゃそうだろう」
「うん、だからたまにでいいや。またしたくなったら言うから今日みたいにしてね!」
「‥‥‥‥」
 ヘーゼルの瞳をキラキラと輝かせながら言うジェームズにシリウスは言葉を失った。 ジェームズはこれ以上はないほど満足そうな表情だった。 それはさっきまで涙を流して快楽に耽っていた被虐的な表情とはまるで逆で、 シリウスの困惑と混乱を楽しむ嗜虐的なものだった。
「 ―――― 変態‥」
 思わず口にした呆れるような言葉にジェームズは文句も否定も口にせず、 ただニヤリと人の悪い笑みを浮かべただけだった。
 シリウスは頭を抱えて枕に顔を埋めた。








 イベント後はこのくらいのエロが描きたくなるほど犬鹿熱がヒートアップ。  いぬしかえろがとてもすきなあきやまです




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