ゾロアスター教 「 古代秘教の本」学研、「世界大百科事典」平凡社、参照


 グノーシス主義ゾロアスター教の影響が大きいといわれますが、むしろその源泉でしょう。唯一絶対神教の成立にも大きな影響がありそうです。
 宗教にとって「悪」の出所が一番の問題でしょう。ゾロアスター教は善悪二元論で有名です。世界を善神と悪神の戦いとみれば単純で分かりやすいことでしょう。グノーシス主義者も物質世界の造物主(悪の原理)を悪の根源とし、本来聖なる霊魂の創造主(善の原理)と区別したのです。
 善悪二元論のゾロアスター教ですが、本来は一元的多神論だったようです。
 教祖ザラスシュトラ の時代における全能なる創造者はアフラ・マズダだったといいます。「始原(はじめ)にして終末(おわり)にまします」と称えられるアフラ・マズダのアフラとは「生命を与える」という意味だといいます。アフラの起源はヴァルナという「宇宙の秩序と人類の倫理を支配する神」だということです。天体の運行、昼夜・日月の規則正しい循環を司る神だったのでしょう。古代のイラン人は、神々はアフラ神族とダエーワ神族とに分かれて戦っていると考えたといいます。ダエーワとはギリシャ神話の太陽神ゼウスと語源を同じくします。ダエーワは物質的・肉体的な世界の神です。それに対してアフラの「生命を与える」とは霊魂を与えるということでしょう。霊魂は星々の世界から来ると考えていたのかもしれません。アフラ神は霊魂の神といえるでしょう。過酷な乾燥地帯の、酷烈な太陽すなわち昼の支配者と、清冽な星空すなわち夜の支配者という対比が考えられます。ザラスシュトラの一族とは占星術師のような夜空の呪術師だったのかもしれません。

 夜と昼、闇と光の戦いという図式こそ、唯一絶対神教への原点といえるかもしれません。
 霊魂の神に創造神の地位を与えて世界像を構築したのがザラスシュトラでした。
 アフラ・マズダは始め6柱の神(自然神的霊魂でしょう)を生み、さらに双子の兄弟神を創造したといいます。兄弟神は自由意志を持っていて、それぞれ善と生命を、悪と死を選択したのです。善の世界は不死で完全なものですが、悪の世界は有限で不完全です。人間の霊は自由意志を与えられて創造されたものですが、悪である物象世界で善と悪の選択を迫られるもののようです。選択の結果は死後に審判されるということです。最後の審判もあって、唯一絶対神教と似ていますが、死後すぐに審判を受けるという点で違います。
 ザラスシュトラの思想には霊魂の再生ということが無いという点でも唯一絶対神教と共通です。
 多神教時代の、自然サイクルによる円環的時間観念に対して、不可逆過程の直線的な時間概念による歴史観を構築したのもザラスシュトラだといいます。この世という悪の世界は有限でなければならない、終らせなければならないという心からでしょう。

 ザラスシュトラが、前2千年紀中頃から前6世紀のいつの時代の人かはっきりしないのは、一人ではなく、一族に代々引継がれた呼称であると考えるほうが自然でしょう。ザラスシュトラ継承の千年のあいだに自然神信仰時代から精神主義的宗教への移行が伺えます。その思想的影響はインドやギリシャにも及んでいたと考えらているようですが、旧約聖書における天地創造の七日間にもその影響を見ることができそうです。