子供たちとともに進める温もりのある映像づくり

 

はじめに

 私の世代にとって忘れられない教育テレビの番組がある。それは、「はたらくおじさん」の主人公「タンちゃん」と、犬の「ペロくん」が毎回さまざまなおじさんを訪ね、テレビを見ている小学生に、働いている様子をレポートするものであった。それは、鉄道の線路を守るおじさんであったり、またある時は郵便配達員やケーキ屋さんであったりした。毎回変わるおじさんの仕事ぶりと、ふだん見たことのない仕事場に、ある種の緊張感を覚えたものだ。本校の子供たちが制作するビデオ番組は、こんな経験からスタートしているといってもよいだろう。

@コラボレーションの場としての番組制作

 本校は小規模校であるため、放送委員会の人数は5・6年生で4名である。番組制作を続ける理由の一つは、番組制作を通してコラボレーションを体験させたいという点にある。番組制作はどのような番組にするかという構想の段階から、台本作り・検討、取材、編集とどの段階でも共同での活動を求められる。まして4人しかいない放送委員であれば、自ずと一人一人の役割分担も明確になり、責任も生じてくる。

A起承転結あるいは序破急を考えた構成

 本校放送委員会が毎年取り組んでいる「小学生ビデオコンテスト」の番組制作は、一番組十分という時間的制約と、省エネルギー・リサイクルに目を向けたものという条件がある。十分という時間はけっこう短く、そこに盛り込む内容は、制作の前段階で十分精選しなければならない。そのために、自分たちが表現したいテーマについて子供たちに自由に話し合わせ、教師はそれを整理しながら、内容を絞り込んでいくことが望まれる。

 内容を絞り込んだ上で、ある程度の起承転結または序破急を考慮に入れた台本を作成する。これは、先に述べた番組の時間が十分という限られたものであるためである。レポーター形式にするのか、カメラが一人の子供の目として映像をとっていく形式にするのか、教師も登場してはどうか、インタビューも盛り込んだらどうかなど、この段階での話し合いによって、番組づくりの多くが決定する。

B意思のある映像づくり

 昨年度制作した「おじいさんのガラ紡―百年前のリサイクル―」の場合、取材の前に意識させたのは、「ガラ紡」と呼ばれる紡績を続ける、おじいさんの顔のしわとおばあさんの手である。また、百年を経てなお建っている工場の中に積もった綿ぼこりである。

 では、子供たちが映像化するために具体的に考慮させる点はどこか。

 取材後の編集については豊田市中央公民館内の視聴覚ライブラリーにある電子編集機を使って行う。したがって、撮影するときに順番に集録していく必要もなく、編集にあたっても、つなぎ目についてはほとんどフラストレーションなく進めることができる。しかし、多くの小学校ではビデオカメラで順を追って撮影し、ビデオデッキを二台接続しての簡易編集を行っているという状況である。機器の条件は千差万別であるが、基本は固定した映像カットの積み重ねでテンポを作ることである。

C意外と難しい音声処理

 ビデオカメラの進歩により、ほとんど手ぶれやピンぼけ、ホワイトバランスの未調整などのトラブルがなくなり、誰でもきれいな映像を撮ることができるようになった。そこで、番組のレベルを上げるのは、音声の処理である。ただし、映像のレベルアップに比べて音声のそれは難しく、私自身も未だに満足するものになっていない。

 子供がナレーターをするとき、最も注意することは、口の形を作ってから発音をすることである。最近の子供たちは、普段あまりはっきり発音しなくても生活できる状況にある。しかし、番組制作においてはそれは避けなければならない。小学生の段階では声の質を求めるよりも、確かなアクセント(高低)、イントネーション(抑揚)、プロミネンス(強調)などを確実に指導していくほうがよいと考える。声の質は、その後のトレーニングによっていくらでも成長するものである。

D子供たちに培いたい力

 音声に関して付け加えるならば、映像や現場音によって実感できるものに対するコメントは避けるよう心がけたい。映像を逐一説明する必要はなく、映像や現場音で実感させることは感性を育てる意味でも重要である。

 番組制作によって、子供たちはさまざまな力を身につけることができる。中でも重視したいのは実際に作った経験によって、映像表現のさまざまな約束を知るという点である。それは、多くの情報の中から真実を見ぬく力を養うことにもつながる。

おわりに

 デジタルビデオの急速な普及とともに、コンピュータを使ったビデオ編集が可能となった。ごく近い将来、子供たちでもノンリニア編集で自分たちの取材した映像を番組化できるようになると予想される。その番組は単にパッケージの番組としてだけでなく、インターネットを使って広く発信されるようになるだろう。これまでのビデオテープを送る「ビデオレター」からEメールで送付する「ビデオメール」へと変化していき、データやメディアを共有する活動へと発展していくだろう。しかし、どんなに映像をめぐる状況が変わっても、人々や生き物をはじめとした感動のある番組は、いつまでも心に残るに違いない。そんな温もりのある映像づくりを今後も子供たちとともに続けていきたいと考える。

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