ないしょの紅蕾 (ないしょシリーズ Ver.マリみて)
別称:祥子さま(を)観察(している)日記
二房目
Ver.1.00
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
随分と朝晩が冷え込むようになってきた、今日この頃。
当たり前ですね。
そろそろ11月も中旬を過ぎる頃。これからますます寒さも本番となるでしょう。
が、今日は抜けるような碧。
深い青色をした空はそれ一色で、柔らかいがしかし、暖かな陽光が嬉しいそんな日。
ですが―――
"紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)"祥子さまのご機嫌は天井知らずで悪かった。
それこそ、弟の祐麒と観に行った映画
―――本当は祥子さまとご覧になりたかったのですが、その頃は出会う以前に知りませんでしたし―――
に出てきたた○り神のようです。
………………
……あ、あああ、あくまでそんな感じといいますか、思ったといいますか―――
祥子さまが決してたた○神と言っているわけでなくてですね、その私が言いたいのは………
「あーーーいっ変わらず祐巳ちゃんってばおもしろいねぇ♪」
思わず私は、「へゃ?!」とびっくり。
ですが、その驚きの声がますます"つぼ"にはまったのか、私の首をギュッと締めていた当のご本人は
「クスッ。あは。あはははー」
とても品位溢れる天下の―――と自分で言うのもなんですが―――お嬢様学校たるマリアさまの園、
リリアン女学園に相応しい、とは対局に位置する哄笑です。
………………
……耳元で騒がれ、すっごくうるさいですけど…………。
しかもですよ。
その笑声をお上げになっておりますのが、リリアン女学園の憧れの君たる―――
「ろ、"白薔薇さまぁ(ロサ・ギガンティア)"。ちょ、済みませんが離れていただけないでしょうか?
それに面白いって、相変わらずって………」
最近になって、イヤというほどに理解したのですが、どうもこのお方は抱きつき癖があります。
そしてそれ以上に、私をからかうきらいがあります。
………………
……からかう?!
薔薇さま方、みなさんに言える気がするのは気のせいでしょうか?
とにかく!
そうして少しでも落ち着けようと言葉をつなぐ私に、"白薔薇さま"はあっさりと一言のみ。
………………
……"白薔薇さま"に対して、あまりにも"地"で喋っていることから、結局はかなりの混乱っぷりでしょうが。
「百面相」
………………
……あっさりしすぎです(哀)
と言いますか、私、また、ですか?
そんなにわかりやすいですか?
「ほらまた♪ どうして何故?、って顔してる。
さっきも叱られる子供みたいに伺う顔から、夢見がちな乙女になって、
キリリと終ぞ見られない引き締まった真剣な顔になったかと思うと、宿題忘れて必死に言い訳を考えている、そんな顔ぉ。
そうそうそれ♪ いやぁー、祐巳ちゃんホンット面白い」
……いろいろとツッコミどころが多々とありますが、ご高説ありがとうございました。
そんなありがたいお言葉をくださった、白き薔薇の君は、
その名を示すかの如く豪奢でいながら繊細なギリシャ彫刻のような端正なお顔を………
………………
……まだお笑いになっておいででした。
少し、泣きたくなってきました。
「―――祐巳」
とそれを許しませんわ、と言わぬばかりのお声。―――美声。
よく通る美声が、何故か、地を鳴動させるほどに低く聞こえてきたのは……………き、気のせいですよね?
最早条件反射を越える、脊髄反射並にビシッと直立不動の体勢。
細胞レベルで染み込んでいるのでは、という素早さでしたが、でも、相手が祥子さまでしたら私は………
「じゃぁ、私はこれで♪」
………………
……って、"白薔薇さま"?!
バッと音が出るほどの勢いで振り返った先には、既にビスケット扉の向こう側。―――素早い。
しかも、いつもなら既に始まっている山百合会会合という名のお茶会ですが、
今日は誰も来ないな、と今更ながら思わされた事実。
そう、そこには"白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)"たる志摩子さんと
"黄薔薇のつぼみの妹(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンのプティ・スール)"たる由乃さんのお二人が―――
にこやかに、淑やかに、完璧ともいえる程の優雅さをもってお手を振ってお出でではないですか!
そして間違いなく、由乃さんがいることは"黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)"令さまが控えているはずです。
―――だって、あんなに仲がよろしいのですから―――
つまり私は―――
「祐巳。聞こえなくって?」
ぱたりと閉じられた扉と祥子さまのお声が重なり、気分はドナドナです。
頭の中では子牛たちのが大合唱です。
「は、はい、申し訳ありません、祥子さま」
「祐巳―――」
「……え? はい祥子さま」
「祐巳」
「? 祥子さ「祐巳」………」
ゴクリ―――。
って、は、はしたない。
で、でもでも。
これはかなりの覚悟が必要です。
「お、お姉さま?」
少し"だけ"上擦ってしまったのはご愛敬。
でも、何故でしょう。
そうやって勇気を振り絞って出した先には、祥子さまの仄かに朱に染まった頬。
も、もしかしなくても照れてる?
その先ほどまでの怒ってます、とは微妙に違う気勢に、ちょっとだけ、いえ、すっごく得した気分です。
「祐巳。今日は良いお天気ね」
「………………」
はい?、と素っ頓狂な驚声を辛うじて飲み込めたのは、ちょっと自分に褒めたいです。
ですが、祥子さま。
まだまだ私には祥子さまは遠いのですね。
少しばかり理解に苦しみます。
何がおっしゃりたいのか、判りません。
「―――。な、何でもないわ」
「そ、そうですか? あっ、でも本当に良い陽気ですね。
こんな日はお外での"会合"も良いかもしれませんね」
チラッと出窓を、外界をご覧になって「そうね」と素っ気ないお言葉。
ですが、先ほどまでの天井知らずの、これでもか、というほどの怒りケージが、今は皆無?
な、何故ですか?
本当に私には、祥子さまはまだまだ遠い存在のようです。
まだまだ"姉妹(スール)"となって日が浅いですが、本当の意味で祥子さまを理解出来る日が私にくるのでしょうか?
それっきり、黙。
祥子さまは先ほどからお読みになってお出での文庫本へと目を落としたのでした。
………………
……
「あ、さち……お姉さま。お茶、入りませんか?」
この沈黙が、と言うよりも、祥子さまと少しでもお話したくて、漸く出た言葉は―――
………………
……ちなみに、祥子さま、と言いそうになりましたが、
祥子さまのキッと貫くような冷たい視線に慌てて言いつくろったわけです。
その変わり、どもることなく、お姉さま、と言えたのは僥倖ですよね?
「あら、ありがとう。いただくわ」
………………
……会話終了。
って違うくて
「そ、それじゃぁ何に致しましょうか?」
ちょっと―――いや、かなり―――動揺していますな、私。
だ、だって仕方がないじゃないですか。
今―――ちょっと前に気付いたのですが―――祥子さまと二人っきりなんですよ!
き、緊張もします。
先ほどの怒りを向けられているのとは違いますが、でも、それ以上に緊張します。
「そうね。………今日の祐巳は?」
「へ?」
ち、違ぁ〜う!
「は、はい。今日の、とはどういうことでしょうか、お姉さま?」
「ふぅー。祐巳は、今日は何をいただくのかしら? と訪ねているのよ?」
厭きられてしまいました。
と思いに至るまもなく、早くお返事を、それだけが頭を駆けめぐり、
だけどとっさに紅茶の銘柄が出てこなくて、私は普段我が家にて飲み慣れている
「わ、私ですか? そ、そうですね。お茶を、緑茶を」
「そう。それでは、私もそれをいただこうかしら」
私の慌てっぷりとは好対照に、あくまでも優雅に、は祥子さま。
……でも、祥子さまに緑茶?
どうにもイメージからかけ離れている気がしますが………
………………
……勝手な、先入観(?)と申しましょうか、そんなものですが。
「お茶、いただけないのかしら?」
「はい、ただいま」
急いで備え付けの小さなキッチンへと駆け込む、私。
ここはリリアン女学園高等部学生会役員『山百合会』の幹部が集まる、通称『薔薇の館』。
館、というには少々小降りな、教室半スペースほどの敷地を持つ2階建ての木造建築。
たぶん増改築されている他の建物とは違い、そういった意味ではリリアン女学園敷地内では一番古い建物ではないでしょうか?
その二階の一室。
山百合会の、薔薇さま達がお集まりになる古いながらも柔らかな、暖かい部屋。
その部屋に今いるのは、"紅薔薇のつぼみ"たる祥子さまとつい最近、その祥子さまの妹となった私、祐巳の二人っきり。
先ほど見えた"白薔薇さま"も、そして志摩子さんに由乃さんも戻ってくるご様子はありません。
二人、のみ(真っ赤)
午後の日差しに照らされる祥子さまは、それはとてもお綺麗で。
それこそ、額縁に飾って一生眺めていたいぐらいです。
………………
……その瞬間。
この刻を居られるのは、魅せられるのは、私だけ。
ちょっと優越感。
「はい、お姉さま」
そっと傍らに、よく蒸らした、自分でも改心の出来だ、と自信―――自信、持てます、よ………
―――を持てる一品。
ちょっとだけ勇気を持って、ちょこんと座る、祥子さまのお隣。
「美味しいわ、祐巳」
「ありがとうございます、お姉さま」
それっきり、言葉少なな私たちだけど、でも、でもすっごく満たされた気持ちなのは何故だろう。
チラッと祥子さまに視線を流す。
やはり、お綺麗。
先ほどは、なんであすこまでお怒りになっていたのかは、結局は判らずじまいですが………
でも―――
「祐巳」
「はに?!」
「? 何を言っているのかしら?」
「な、なんでもありません。
それよりもさ、お姉さま。何か?」
「えぇ。お茶、もう一杯いただけるかしら?」
「はい♪」
でも、こんな日も悪くはない。
そう思う、午後の、二人っきりのお茶会でした。
「まったく祥子も素直じゃないんだから」
「そうね。誰に似たのかしら?」
「ちょっと聖も江利子も―――。何が言いたいのかしら?」
「お、お姉さまがた。ポット、で悪いのですが、お茶いかがですか?」
「おっ、いただこうかな」
「そうね。令、お願い」
「ちょっとあなた達!」
「でも、私たち、ちょっと祐巳さんに構い過ぎましたでしょうか?」
「≪ナイス、志摩子≫そうだね、せっかく出来た妹を取られちゃって………拗ねるぐらいだからねー、祥子が。
でも祐巳ちゃん、すっごくかわいぃ〜んだもん。
祥子だけの妹には、もったいなさ過ぎるよ♪」
「そうね。すごくからかうがいもあるわ」
「それは認めるわ」
≪って、"紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)"はどちらをお認めになられているのですか?≫
「でも本当に祥子も変わったわね。
気付いてはいたけど、まさかあそこまで可愛がり、執着するとは思わなかったもの」
「それは言えてる。今や目に入れても痛くないほどだからね」
「でも祐巳ちゃん見てて思うのですが、本当に一つ一つの行動が、何気ない仕草でさえ全部本気ですからね。
それが祥子を動かしたんでしょう」
「そうね。そうだと思うわ」
「それに、憎らしいほどにお互いしか見てないものね。
お祖母ちゃんとしては、仲間はずれにされたようで哀しいわ」
「けど、お互いにそれと気付いてない。
ホンット似たもの姉妹。なー『紅薔薇さま』♪」
「………何が言いたいのかしら、『白薔薇さま』?」
≪…………。本当に無用な動乱を好むのですから、お姉さまは≫
そんなやり取りが、階下、薔薇の館の一階で為されているとはつゆ知らず、私と祥子さま―――
お姉さまは、穏やかな午後の一時を過ごしているのでした。
………………
……祥子―――お姉さまはどうしてあそこまで機嫌が悪かったのかしら?
それに………今は良い、よね?
私としては、ムッツリよりもニッコリのお姉さまの方が断然良いのですが、それにしても何故?
後書きという名の言い訳
そろそろ疲れが見えて来始めた、今日この頃。
何か感じる事がありましたら、どんな事でも構いませんのでメールを、よろしく、です
それでは、またいつの日にか………