蒼き闇の貴族 〜その序曲〜
『魔神降誕篇』 の−プロローグ−にあたる部分の一部抜粋よン♪
つまりはただのお試し版(ボソッ)
―――更に増量しました(苦笑)
*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*
「……志貴、久しぶりだね」
スイス アルプス連峰―――ドイツとの国境にほど近い山野
奥まった場所に位置するここは、その地形との兼ね合いでひどく人目に付き難い場所でもありました
ちょうど上手い具合に山陰に隠れているのです
………………
……それ以前に、白の吸血姫がこの周辺一帯に結界を張っていますから、おいそれと人が踏み入れる事はありませんが、ね
開け放たれた広大な草原にて横たわっているのは、私が『主』と請うたお方
マスターはその強すぎる魔眼―――『直死の魔眼』を殺す為に封縛呪が施されている包帯
魔帯を施しています
以前は蒼崎の遺産たる『魔眼殺しの眼鏡』を着用していましたが、マスターの能力がそのキャパシティーを越えてしまった為に、魔帯をする事により眼を閉ざす―――覆う事にしたのです
私はマスターにそっと膝をお貸して、二人、揺らぐ時をゆったりと過ごしています
何をするわけでもなく、マスターの髪をゆっくりと愛おしむ様に撫でている
だたそれだけなのですが、やはり、と言うか頬が紅潮するのがはっきりと自覚している自分がそこにいるのです
自覚できる、この感情が何なのか、今ならはっきりと解る自分が嬉しくもあります
けど、そんな時のマスターはひどく鈍感ですからちょっと寂しくもありますが
………………
……私が……そのぉ………こ、こんなに……(ゴニョゴニョ)―――
天空には真円を描く蒼銀が輝き、降り注ぐ白光が鋭利な刃物となって冷たく透き通った空気を更に冴え凍らせています
もうすぐ厳しい冬の時を迎える為なのか、張りつめた緊張感がこの地を覆い尽くさんばかりに浸透しています
そしてこの地方に雪が―――初雪が舞う頃には、最後の闘争の時を迎えるのでしょう
そう今は一時の安らぎの―――唯一、休息が許された刹那的な刻
「……お久しぶりです、先生―――」
そこには、いつの間にか『ミスブルー』こと現存する『5人の魔法使い』の一人にして、『マジックガンナー』と呼ばれている風の魔術師
『世界を渡る者』―――蒼崎青子が起っていました
今日は珍しく黒髪です
そうです、彼女が持ちうる本来の髪色をしています
そのことからこの世界に影を落とし、鏡態反射を利用して実像を結んでいる訳でなく、三重の性質を有しながら振動係数の違う第一原質を繋ぎ合わせ……
難しくもバカみたいな講釈は止めにしましょう
簡単に言ってしまえば『実体化』している、と言うことなのですから
つまりは、何かを媒体に受肉している訳でもありません
まさしく彼女自身の身体―――肉体なのです
………………
……えっ?!鏡態反射が解らない?
簡単に言ってしまえば、フォログラフィー―――立体映像の事です
もし自分自身を無理矢理にでも『持ってきます』と『霊質』を失いかねないのです
それほど負荷がかかり、危険な事なのですよ―――『別の』世界に現出させる事は……
さすがにそうなってしまったらもうダメです
では霊質を失うとどうなるのか?
それを説明するのに一番適した、代表的な例としては『第七聖典』の存在があります
あれと同じく『因果律からの消失』を意味しますから解ると思います
―――全てが初めから何も無かったことにするのです
虚無―――この言葉すら生温い『存在の死』を意味します
それにしても、ブルーの実体―――私が知る限り、『この世界』を経って以来ではないでしょうか
本当に珍しい事です
そして、いつも手にしている古ぼけた旅行鞄を脇に降ろしますと、マスターの横に何故かさりげなく腰掛けます
マスターも身体を起こして、座り直しました
そうです!
マスターの記憶の中に大切に納められている
初めての出会いの時、それと同じ構図が展開されているのです
………………
……と、それは良いのですが、マスターとの『蜜月』を邪魔しますか!
折角マスターが私の膝枕の下、二人して緩やかに時間の流れに身を任せていましたのに、起きあがってしまったではありませんか!
はっきり言って邪魔以外の何者でもありません!
「……志貴、君は変わったね」
むぅ!私を無視して話しを進めましたね、青々は
「(レ、レン!?ちょっとだけ大人しく……我慢してくれ)そう、ですか……」
「あー、いろいろあっただろうに。……変わるのも無理ないか。でも、ホントいー男になったよ、君は」
硬質でいて、無機質な瞳に精気が宿り、実に優しげで温かな瞳を向けます
本当に綺麗な瞳をする女性です
たぶん……いえ、確実に今まで知っているの中で一番の輝きを持った瞳をする女性です
………………
……と言いますか、青々……マスターに色目使っていないでしょうか?
もちろん、このような映像はマスターには流しません!
映像を流す―――
それは直死の魔眼の過剰なる発達により、視覚を絶つ事となったマスターではありますが、その他の感覚が鋭敏に発達している為に日常生活に於いて困るような事はありません
ですが、私を通す事によって視覚を保持する事も可能になりました
マスターと私が繋がっているからこそ出来る事ですね
ただし、あくまでも私が視た……いえ、マスターに送った映像に限りますが
あれ?!よくよく考えてみれば、青々がこの様な柔らかな笑みを浮かべたのを初めて見た気がします
……そういえば、マスターの記憶の中にある青々はいつもこんな感じですね
私が知っているイメージは、うーん、そうですね……触れれば壊すぞ!的な破壊衝動の波動しか感じた事がなかった―――それこそ鬼神と評するのも生温いお方でしたのに、本当にこの人間は、『あの』ブルーでしょうか?
「……君、何か失礼な事を考えてないかい」
「…………」(ブルブルブル)
一瞬、今まで私が見慣れてきた剣呑たる眼をこちらに向けました
もうこれでもか!ってくらいに苛烈に光り輝くクリスタルブルーの瞳をこちらに向けて……
つまりは、全力戦闘態勢完了、ですか!?
しかもマスターには解らないようにです
本当に性根が腐っていると申しますか、卑怯ですよ、青々は―――
「?……どうした、レン?」
「…………なんでも、ありません……」
「……志貴、これからどうするんだい?」
「どうする、とはどういうことですか、先生?」
天空から降り注ぐ銀光が色鮮やかに二人を彩ります
今日は何て残酷な程に綺麗な満月なのでしょうか
澄み切った空気も相まって、本当に直ぐ其処に月があるかのようです
「解ってるクセに……」
低く無機質で無感情なほどに乾いた笑い声を辺りに響かせます
「『死徒による真祖狩り』を提唱してきた死徒も残り一人となった。
提唱した27祖の一人『トラフィム』、ただ一人。そして『この世界』が自然修復プログラムとして発動させたシステム
―――復活した『the dark six』を中心とした『六王権』も瓦解させた」
一拍置いて、力強く高らかに宣言するかの様に吐き出します
だがそこにある意志は―――酷薄
「志貴、君がだ!」
「…………」
マスターは黙って、青々の言葉に耳を傾けています
その魔帯で塞がれた眼にはいったい何が映し出されているのでしょうか
「……今や君は、真祖狩りの、そして六王権の死徒両方から狙われる身。
教会や協会、ましてや真祖に人ではなく、志貴―――いや『殺人貴』……君を、名指しで!」
この辺りを吹き荒ぶ寒風よりも、より冷たく冷徹な言の葉がこの空間を支配します
まるでざらついた硬質なイメージがこの場を乱雑に侵蝕していきますから、気持ち悪いです
今までにも強大な敵に何度も立ち向かってきました
………………
……立ち向かわされた方が多いような気がしますが、この際関係ありません
そのほとんどが白の吸血姫が原因とはいえ、全く毛ほども悪くは思っていません
それにしても、これほどまでに濃密な死をイメージさせるのは初めてです
「…………先生……」
「教会も今までは埋葬機関のみが躍起になっていたが、ついに法王自らが宣誓したよ。
つまりは全ての教会組織が殺人貴を敵と認めた訳だ。
殺人貴……その能力ゆえ、そして取り込めないのならば教会の脅威となる、
そう言った所だろうに理由は。まぁナルバレックに眼を付けられていたからな、君は」
語る青々の表情は虚無!
どのような色にも染まっていない『無』―――光も闇もそこには何も無かったのです
「……でもそれは私が属する協会も同じ事。姉と同じく『封印指定』を受けたよ、君は」
「……ですが、協会に属するつもりはありませんよ、俺は。もちろん教会にも、です。
自称、俺の悪友を名乗っている死徒の言を借りますと、『自由意思までは変えられない』ってとこです」
軽く肩を竦めるように両手を持ち上げるジェスチャーをします、マスター
青々はフッ、と一瞬顔が綻びました
が、それも直ぐに先ほどの無感情な、全ての体組織に無駄のない虚ろな存在となります
「だろうね。私も君をスカウトしに来た訳ではないしな……。
そもそも封印指定なぞ、語呂的に良さ気なだけで、実際にはただの監禁だからな―――牢獄だよ」
「クスッ……先生は協会出身者でしょ。そんな風に言いますと誰も来なくなりますよ」
そうか、と短く一言だけ返事を返すと、あとは沈黙が辺りを包みます
今だ青々からは重苦しい雰囲気が漂っています
「……もう一度聞こう、志貴!君はこれからどうするんだい?」
「…………」
蒼く白く銀色に輝く月
その蒼銀を見つめるように見上げます、マスター
私は、いえ、私もマスターの次の言葉を待ちます
マスターの傍らに寄り添うように、そっとマスターを見つめ……
………………
……青々に対する『牽制』の意味もありますが―――
「俺はすっごく変わったと思います」
いえ、変わりました、と静かに白い息を吐き出すように舞い散る言葉
「昔の俺を知っている人たちは、本質は変わってない、とは言ってくれますが、
やはり先生が言った通りに俺は変わりました。……これは自分でも解っているつもりです」
自虐的な嘲笑を交えて応えます
常にマスターが身に纏っている儚げなイメージ―――幽鬼の如く存在が希薄に見える為に、思わず強く袖口を握っていました
……マスターが、何処か遠くに行ってしまわないように―――掻き消えてしまわないように……
「ふふっ、『殺人貴』と言う通り名がある、これ以上にない証拠ですよ。皆、良く解っている……」
そんなに悲観しないで下さい
マスターがそのようなお顔をしますと、私はすごく心配です
………………
……えーっと、少し恥ずかしいですが、やはりマスターには筒抜けのようでした
こちらを振り向くとそっと頬に手を添えてくれて、微笑んで下さいましたから
いつかのあの透き通った笑顔で―――
「……昔、先生が言ったとおりに何時尽きるとも解らないこのポンコツの心臓が、よくここまで持ってくれたと感謝していますよ」
ポンッ、と自分の左胸を小突いた後にでた言葉に、私は身が凍り付く思いでした
「ですが、さすがにもぉ限界でしょうね」
ビクッ
ま、マスター……
「別に俺は今まで人が住みよい世界を作ろうと躍起になってきた訳ではありません。
そもそも俺みたいなちっぽけな人間が、そんな大それた事が出来るとは思ってませんしね。
けどね、例え世界中の人に恨まれようが、例えちっぽけな世界であろうが、この残り少ない人生
―――アルクェイドとレンの為に使おうと思っています!」
「………し、志貴さ、さま…………!」
とても一言では言い表せません
もし敢えて言うのでしたら『驚き』―――驚愕が私の感情の大部分を占めている事は間違いありません
……そして、悦び!
「……志貴………君はそれで……」
良いのか、と続くと思われる青々の言葉を制するように紡ぎました、マスター
「えー、アルクェイドとレンにとって、住み良い世界を作りたいンです。
その為には害為す者は徹底的に排除しなければなりません!
ですが善悪を決めるには俺には残された時間はないですし、権利もありません。
ならば、邪となろうが魔となろうが、俺は『殺人貴』となりますよ。……喜んでね」
そう言った意味では俺に皆の注意が向けられるのは願ったりですよ、と続けて
そして―――
遙かなる昔日となりし刻の、柔らかい微笑みを浮かべて……
でも、前が、マスターの顔が、見られませんでした
今の、今の私には……
それこそ悲愴の決意なのは解っています
そして不謹慎だ、ということも
ですが、私は……私には―――
止め処なく溢れかえる温かな滴にて視界がぼやけていましたから
ポンポン
私の長く空色の髪を優しく梳いてくれます
………………
……余談ですが、最近はマスターが髪を梳かしたり、リボンを着けてくれるのですよ
丁寧に優しく髪を梳いていただけるのですよ、本当に
これが最近の私の密かな楽しみなのです♪
「ほら、レン……」
髪を撫でていた手がそのまま頬を伝います
暖かな温もりが私を芯から貫きます
私はその右手を両手でしっかりと包み込むように握り締めていました
ふにゃぁ〜〜♪
「……俺は、この姫君たちに『喜怒哀楽』を教えた責任を取らなければいけませんからね」
幾分弾んだ声で青々に応えている気がします
………………
……ちょっと優越感です♪
ですが、その言葉は以前に白の吸血姫が仰った言葉を捩っただけです
だからとは言いませんが、私の眉がピクリと反応したのはご愛敬ですよ
「フフフッ、志貴がそこまで言うとはね……ふ〜ン♪」
先ほどとは違ってからかう気満々の雰囲気―――どうやら間違った方向へ気分が昂揚しているご様子です
子供が面白そうな玩具を見つけた、とはしゃいでいる様な無垢な輝きを放つ眼
……そして、ある種チェシャ猫を思わせるイヤらしい笑みを浮かべます、青々
ですが……
「―――まぁ良いか……で、その白の姫君は何処なのかな?」
姿が見えないけど、と続く言葉は私の耳には入ってきませんでした
………………
……ぶぅー
「(レン、落ち着いて……)……えーっと、今日は幾分か気分が落ち着いているから……」
マスター―――もしその包帯をしていなければ、文字通り『眼が泳いでいる』のでしょうね
現に今は、眼の変わりに……いえ、それ以上に解りやすく、所在なさ気に右頬を掻いています
「?……どうしたんだい、志貴?」
「(レン、機嫌直してよー……)あっ?!えっ……いえ、大丈夫です。
メシ―――そう今、アルクェイド、メシ作ってるンですよ!」
「メシ?!……御飯を作ってるのかい、あの姫君が?それ以前に食事を必要としていない真祖が―――もしかしなくても君の御飯かい?」
えー解っていますとも!
白の吸血姫の活動期―――行動時間は現在、極端に短いです
それもこれもマスターを守る為、と言うのも十二分に承知しています
ですから、『なるべく』活動期、つまりは安定期に入っている白の吸血姫の行動は容認しようと思っています
「(ほら、レン、お願いだから……)ぅえ!?えー、そうです」
いつものように私が御飯を作ろうとしていると(エッヘン!マスターの為に覚えたのです♪)
ちょうど起きあがった白の吸血姫が、今日は私が御飯を作るよー、と仰られたのもしょうがないでしょう―――と、と、と思います、です……
「へー、何か意外だね」
「そんな事ないっすよ、これが結構………あっ、いや…その……」
ですが、その時のマスターのセリフが……
ホントか!嬉しいなー、久しぶりにアルクのメシが食えるンだー、楽しみにしているよ、と即答!
もちろん白の吸血姫さまは、それはそれは嬉しそうに破顔してらっしゃいました―――これ以上にないぐらいの頬紅付きで、です
「(レーーンーーー(汗))」
「?……どーしたんだい、志貴?」
周囲の声が木霊して、ますます機嫌が悪くなる私でした
続きは本編『蒼き闇の貴族 〜その序曲〜』をご覧になって下さいましな(爆)
こんな感じのモノが全5篇+αの短編集ですわ(ボソッ)