これが今回修理を依頼されたR1100用のD6RA75セルモーター。
R1100のセルモーターは、R100用のようにカバー内に後ろ向きに
取り付けられておらず、エンジン後ろから前向きにダイレクトに刺さって
いるため、R100用とは逆に、左側から見て反時計回りに回転します。
これが今回の交換部品。
新品のマグネットハウジングはR100用のD6RA15とケースは同じですが、マグネットの配置が90度ずれています。
ケースが同じためD6RA15につきますが、モーターが逆回転してしまいます。
その他の部品はR100、R1100、モトグッチのすべてに共用できます。

これらの補修部品はVALEO純正ではなく、アメリカのEUROMOTOELECTRICS社製です。
特にマグネットは剥がれ対策のためクリップで押さえてあり、純正より長寿命が期待できます。

事前に左下の4個のベアリングは一晩オイルにつけておきますが、4個のうち1個は新品のマグネットハウジングに圧入されてますので使いません。
このシールは純正のD6RA75である証。
D6RA7では6角レンチですが、このモーターはすべてトルクスT25が
使われてます。
マグネットを固定しているリベットをドリルなどで削り落としてから、3本の
T25を抜き、カバーのソレノイド側を固定しているT20を抜きます。
カバーを取ります。
オイル分が完全に飛んでます。
マグネットハウジングは引っ張れば抜けます。
マグネットが2枚剥がれていました。
原因は経年変化ではなく、チョークを戻さないまま30分アイドリング
したためエンジンがオーバーヒートし、セルモーターの接着剤が
溶けてマグネットが剥がれたそうです。
セルモーターがむき出し装着のR1100でそうなら、カバーで覆われた
中にモーターがある、熱的に苦しいR100のセルモーターは壊れ易い
はずですなあ。
銅のナットを外します。
依頼主がバネを外すときに失敗してホルダーのスプリング固定部分を
割ってしまったということで、スプリングを外す手間がはぶけました。
アルミキャップの上側にあるべき部分が消失してます。
アルミキャップを外して、クリップをプライヤーで取ります。
2枚のスラストシムを取ります。薄い、厚いの2枚組です。
取り付ける順番はどちらからでもOK。
これでアーマチュアが抜けるはずですが、マグネットの磁力と、噛み込んだ
マグネットの破片が引っかかっていて簡単に抜けませんでした。
マグネットが食い込んだ跡。と思いましたがバランスどりのあとらしいです。
マグネットの破片があちこちくっついていて落とすのが大変でした。
スラストシム。
さいわいギア部分は消耗もなく良好。
ソレノイドにはこのようなプレートが付いてました。
ピニオン部分にはおそらくクラッチから出ただろうスラッジがいっぱい。
当然ですが、クラッチのロック方向はR100と正反対で、左回転がフリーです。
プラネタリーギアの蓋を取ります。
こちらはしっかりグリスが残っていました。
外周、遊星ギアともギア数がR100用の半分しか有りません。
ギアピッチが粗いのです。
強度アップのためでしょうか。
ところがコレのせいで奥のブッシュを抜くのに一苦労。
ちなみにR100用の同じ部分。ギアピッチが細かいでしょ。
パイプ状のものでここのクリップをたたき落とします。
中にあるCリングを抜くとクリップが抜けるようになります。
クリップを抜きます。
これでピニオンが抜けるようになります。
シーソーのピンを抜きます。
これでピニオン、シーソー、プランジャーが抜けるようになります。
おおっコストダウン?スプラインが間引いてある!
しかもパイプのプレス品じゃん。
ちなみにこっちはR100用のD6RA15。
ムク材の削り出しです。
明らかにこっちが強度ありそう。
こっちのほうが古いんですよー。
ギアトラックのサークリップとシムを抜きます。
褶動部分にもギアにも消耗はありませんでした。
この奥にあるブッシュを7mmという半端なタップで抜きます。(普通売ってません)
ちなみに抜いた後です。
ただ、この3個の遊星ギア、R100用のD6RA15のギアより直径が大きいため、ブッシュが
ギアの間を通り抜けることができません。おそらく工場で組み立てるときは、ブッシュを
入れてからギアをカシメるのでしょう。
隙間よりもあきらかにブッシュ径のほうが大きいのです。
で。どうするかというと。
各ギアブッシュが当たる2枚の歯だけ、ブッシュが通る寸法まで先端を削るのです。
ただ、このモーターは遊星ギアのブッシュが磨耗していたため多少ガタがあり、3個のギアを
外に広げると隙間がこの直径ぎりぎりあったため、苦労しましたがなんとか抜けました。
ギアトラックのブッシュを、プーラーで抜きます。
カバー先端のブッシュも以下同文。
これで完全分解完了。
洗浄して組み付けに入ります。
オイル漬けしたブッシュ。
通常4個交換しますが、このうち1個は新品のマグネットハウジング
を購入すると圧入されてきますので使いません。
遊星ギアユニットに新しいブッシュを圧入。ところがやっぱり3個のギアの隙間が
ブッシュの外周ぎりぎりでなかなか入りません。
3個のギアを微妙に回転させてギアとギアの間をくぐらせます。
なんとか完了。
ベアリングプーラーでギアトラックに新しいブッシュを圧入。
耐熱グリスを充填し。
遊星ギアと合体。
サークリップのみぞが出るまで挿入し。
さらにグリスを充填して。
フタをします。
シムを入れてサークリップで固定します。
ここも回転するのでグリスまみれにしておきます。
ついでにスプラインにもグリス。
ピニオン、シーソー、プランジャーを同時にセットしてピンを入れます。
クリップをセットして
Cリングを入れます。
プライヤーなどでできるだけ直径を小さくなるように締めます。
クリップにCリングを押しこむようにセットして。
ベアリングプーラーで引っ張り上げると、ばちんという音と共にクリップが
固定されます。
クリップの溝にCリングがきちっとハマっているか確認します。
ケースカバー先端のブッシュを圧入します。
ケースカバーをかぶせて
T20のトルクスで固定します。
ソレノイドを取り付けて減速機構部分の完成です。
EUROMOTOELECTRICS製の剥がれ対策済みマグネットハウジング。
最新のタイプはクリップをかしめてあります。
アーマチャにグリスを塗り
新品のマグネットにセット。
厚いシム、薄いシムの2枚をセット。
ただ、新品ブッシュの場合、薄いシムを抜かないとクリップが入らない場合がありますので
注意。
ここも回転するのでグリスを。
サークリップで固定します。
2本のピンに合わせて
T25のトルクス3本で固定。
アルミキャップにグリスを詰めてかぶせます。
ゴムのグロメット、ブラシホルダーをセットします。
スプリングをこのようにセットして
ぐいっと一気に押し込みます。
スプリングが奥のマグネットの爪に引掛っているのを確認して下さい。
手でこじってもブラシホルダーが抜けなければOK。
入力線をセットします。
スプリングを持ち上げブラシと絶縁板を入れます。
アース側も同様。
この絶縁カバーを忘れずにいれます。
キットには入っていませんので分解時になくさないこと。
(分解するときカバーについてきます。)
カバーを被せてナットで固定しますが、締め過ぎないこと。
入力線をソレノイドに取り付けて完成です。
充電したバッテリーからブースターケーブルでボディにマイナス
入力ボルトにプラスをセットし。
この平端子とプラスをショートさせるとセルモーターが回ります。
これで完了です。
ショップからの依頼ですが、良い評価をもらうことができました。
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