他人の心
MASTERKEATON第4巻CHAPTER1より
「なぜ悩むんだね、人間は一生、他人の心などわかるはずもないし、人の死を本当に悲しむことなどできはしない。」
「あなたが奥さんを愛していたのは本当のことだ、それは、あなたの中にあるからだ。」
「でも、奥さんがあなたを愛していたかは、あなたの思いこみだけで、本当には分からない…ましてや、わかりあっていたなんて幻想に過ぎない。
「人間は一生、自分という宇宙から出られはしない。」
「自分の中に描いた他人と共に暮らし、ドラマを作り、泣き、悲しみ、死んでいく。」
「いや、これは人間だけではない、鳥や獣もそうかもしれない。」
「しかし人間は、この宇宙よりもずっと広大な宇宙を持っている・・・。」
他の人の心がわからない・・・ほんとはどう思っているの?
この疑問の前に立ち止まらされる人は少なくないんじゃないかな。
人間は嘘をつきます。
演技します。
悪意によるものばかりでなく、善意によっても・・・。
相手を傷つけたくなくてとか、相手の立場をその人なりに思いやった上での事であったりします。
それすら自己保身だと言って責めるつもりはないです。
その瞬間は本当でも、明日には違ってるかもしれません。
気持ちって移り変わるものですから。
こればっかりは、血のつながりがあっても、どんなに多くの時間を費やしても、ダメでしょう。親子でも兄弟でも、夫婦でも親友でも、「他の人」です。
僕は少年のころ、親友だと思っていた相手がいました。
人当たりが柔らかく、陽気に振舞う彼はクラスの人気者でした。
休み時間も一人で本を読んでたりする僕に、親しく声をかけてくれたり、遊びに誘ってくれたり、クラブや委員会も一緒になったりして、どんどん傾倒して行きました。
そんな僕に、先生や母は忠告をくれましたが、僕は彼に心酔していたので(あるいは信じきっていたので)、聞く耳を持っていませんでした。
でも、それは彼の演技でした。
彼は始めから僕のことが大嫌いで、僕を陥れるために罠を張ったり、噂をまいたりしていたのです。遊びに誘ったりしてくれるのも、勉強する時間を奪うためだったとか。
彼の演技が上手だったのか、僕が鈍かったのか、おそらくその双方でしょうが、卒業するまで僕はそのことに気がつかずにいました。
彼が何を思ったのか最後に先生にノートに書いて告白し、それを伝えられて知ったのです。
それ以来、彼が僕に近づくことはありませんでした
交わした言葉や、一緒に過ごした経験を、自分の心の中に投影して他の人間のイメージを自分の中に作り上げているにすぎない。
隣で笑っている人が、その心の中にどんな思いを潜ませているのか・・・
本当は僕のことを疎ましく思っているのではないのか
人間不信というよりは、自分の「表情や言葉から相手の心情を読み取る」能力への決定的な不信感は、それ以来ずっと僕の中にあります。
しかし、そのために、「言葉」というものをとても大切に思います。
相手の言葉から、できるだけ多くのことを感じようと願い、相手に送る言葉は懸命に考えて、選んでいるつもりです。
言葉にすがっていると言ってもいいかもしれません。
嘘をつくのもつかれるのも嫌いです。
自分の中のイメージを実像に近づけるために、そして自分の気持ちをできるだけ実像に近く伝えるために。
他の人の心の内を知ることができたら、安心できる居場所を見つけられるかもしれない、だから知りたいという気持ちはいつもあります。
でも人の心には闇の部分もあります。人は相手の心の全てが見えないからこそ、相手を信じることができるのかもしれません。