尾張西部地域の
あいさい団子は、蓮根の産地「愛西市(あいさいし)」の名前を付けた団子です、溜まり醤油を使ったあんが少し濃く仕上がっていたので、蓮根の味が解りにくくなっていて少し残念でした。蓮根を生かす料理なら、具に塩味を効かせるか、つけ醤油にした方が良いかもしれません。その場合、蓮根の輪切りを素揚げにした蓮根チップスを添えると、蓮根を2種類の食感で味わえます。
越津ねぎ吸いは、伝統野菜の越津ねぎの甘味が出ていて美味しい汁でした。寒い時期には片栗粉でとろみを付けても良いと思います。子どもには溶き卵を加えてかき玉風にすると、更に食べやすくなるでしょう。
尾張東部地域の
大名蒸しは、地域ブランドの「もみじたまご」を使い、白醤油で味付けした上品な茶碗蒸しでした。しかし海老・銀杏・里芋・ホウレン草といった贅沢な具が殆ど卵液に隠れてしまったので、「大名蒸し」の名前と見た目が合いません。卵液はそれだけで蒸し上げ、具は上に乗せてあんをかけた方が豪華に見えると思います。卵の味を際だたせるなら、逆に具は1種類だけとか、シンプルにして作る方法もあります。
白菜の彩り巻きは、冬野菜をうまく使った料理でした。焼き穴子が入って豪華でしたが、逆に野菜のみで整えても良かったと思います。
知多半島地域の
山芋の蒲焼きは、特産の山芋と木綿豆腐を混ぜ、ささがきゴボウとニンジンを加えて板海苔に乗せ、油で揚げて甘辛いたれを塗ってありました。料理自体は美味しかったのですが、具の野菜が多くて山芋の味が解りにくくなっていました。野菜は入れず、豆腐と胡麻だけで作った方が山芋らしさが出たでしょう。蒲焼きにせず、落とし揚げにする方法もあります。
うんね貝(ツメタガイ)はアサリを食べる肉食の貝なので、アサリが獲れる地域ならどこでも生息していますが、食用にする地域は知多半島と三重県志摩地方、広島県福山市周辺のみと聞いています。

講座の中で、愛知県でも他の地域の人は「うんね貝」を知らないということをが解り、知多半島からの参加者が、地元で食べられている料理を作って下さいました。それが
うんね貝の佃煮です。
うんね貝は筋肉質で固いので、少量の味噌を加えた湯で1~2時間下茹でしてから薄切りにし、ニンジンと共に醤油と砂糖で煮付けます。磯の香りがして、独特のクセがありますが、お酒のつまみにすると美味しい食材です。大人の料理という感じですが、地域独特の食材なので、是非残していってほしいと思います。
セントレアの華は、セントレア(中部国際空港)周辺の海岸で獲れる「アカモク」という海草を使ったものです。アカモクは生では赤色ですが、火を通すと緑色に変化します。今回はわらび粉を練った中に下茹でしたアカモクを入れ、きな粉をかけてデザートにしてありました。

食べると海草のざくざくした食感と、海苔のような風味が広がります。しかしきな粉をまぶしてしまうとアカモクの存在が解りにくいので、デザートにするより、酢醤油などをかけて前菜にした方が良かったかもしれません。アカモクはカルシウムや鉄分が豊富で、これから健康食品としてアピールしていきたいということでした。
西三河地域の
やまぶき寿司は、地元の老舗食品メーカー(株)ミツカン酢が、江戸時代の酢として復刻させた酒粕の酢「山吹(やまぶき)」を使い、地元の行事食である押し寿司に仕立てたものです。寿司飯の色が茶色っぽくなりますが、ツンとこないまろやかな酢です。今回は具に生ものを避けて作ったということですが、素朴な色合いと味が、山吹酢の雰囲気によく合っていたと思います。
ニギスは三河湾で水揚げされる小魚で、この時期、漁獲量の多い水産物です。身が柔らかく少しヌルッとした食感があります。
ニギスの団子汁のように団子にすると食べやすいですが、あまり存在感がないので、ささがきゴボウなどを少し加えて食感を出すと良かったかもしれません。
東三河地域は豊川水系から渥美半島を含み、中心となる豊橋市はうずら卵の生産量が全国1です。卵があるなら肉もあるのでは?と問いかけたところ、まだ完全に商品化されてはいないけれど、今後うずら肉を販売していく計画があるということで、うずらの肉を使った
うずら鍋を考案していただきました。

フランス料理などではよく使われるうずらの肉。日本料理では江戸時代の料理書に登場しますし、懐石料理でも「鶉丸(うずらがん)」と言って、椀盛の具に仕立てたりします。しかし今では一般的な食材ではないですね。
当日は軟骨と一緒にミンチにした肉を持ってきていただきましたが、赤身の色が濃く、鉄分の多い印象でした。当日のうずら団子はまだ骨が歯に当たる感じでしたので、もう一度擂り鉢で擦るか、フードプロセッサーにかけると良かったかもしれません。鴨肉よりもクセのない味ではありますが、鶏ミンチを少し加えて団子にすると、更に食べやすくなるでしょう。工夫次第ではなかなか面白い食材です。
里芋まんじゅうは、愛知の伝統野菜である「八名丸(やなまる)」という里芋を使った料理です。ねっとりと柔らかい食感の、とても美味しい里芋でした。表面を固める程度に油で揚げてありましたが、逆にカリッとするまで揚げると、表面の感触と中の柔らかさにコントラストが出ると思いました。
参加された皆さんはそれぞれが料理のプロなので、手際も良く、見た目もきれいで味的にもよく整っていました。しかし一つの食材を生かす、という観点から見ると、少し手を加えすぎかな?という気もしました。料理としての完成度は高くても、「この地域食材をアピールしたい!」という目的があるなら、その食材の良さをどう際だたせるべきか、と考えていくことが大切です。

この日は地産料理だけでなく、愛知県調理師会の副会長である鳥居久雄氏が、郷土料理の「煮味噌」と、天むすをアレンジした「天巻き」の指導もされ、盛り沢山の試食会となりました。
煮味噌はたっぷりの野菜を、甘味を効かせた豆味噌で煮る料理。もともとは農家が畑で穫れた野菜と自家味噌を使って作っていましたが、自家製の味噌は乳酸発酵が進んで酸味が出やすいという特徴があります。酸味を抑えるために砂糖を加えたのが、この味付けの原点だと思います。
家庭では主に冬に作り、煮えばなの熱いところを白飯にかけて食べます。こちらの煮味噌には鳥居氏のリクエストにより、愛知の伝統野菜で、大根の原種に近い「方領大根(ほうりょうだいこん)」が使われました。
天巻きは海老の天ぷらと穴子の天ぷらをそれぞれに海苔で巻いて仕上げたものです。この料理は鳥居氏のオリジナルで、寿司飯ではなく白飯を使います。

普通の天ぷらを白飯で巻いてしまうと味が足らなくなりますが、鰹節を煎って甘辛く味付けしたおかかを一緒に巻いて味を整えています。おかかの甘辛さが天つゆの替わりなのだとか。名古屋クラウンホテルの総料理長を務めておられる鳥居氏。この辺りの工夫はさすがですね。
一口に愛知県と言っても、各地域の特産物や伝統料理には違いがあり、自分の住む地域以外の食文化については、案外知らないものです。
知多半島の「うんね貝」や「アカモク」など、この講座に参加して初めて知った、という参加者も多くいましたし、「越津ねぎ」「八名丸」「方領大根」など、生産量が少なくて、地元にも滅多に出回らない伝統野菜の味を知ることもできました。
少し驚いたのは、愛知県全域の郷土料理と思っていた「煮味噌」を実際に食べたことのない参加者が多かったこと。家庭の中で伝承される郷土料理は、外からはなかなか見えにくいものです。このように多くの方が集まることによって、各地域の特性が明らかになり、貴重な情報交換ができました。
今後、こうした郷土料理や地産料理を伝えるためには、「料理の背景を含めて伝える」「
地域行事と合わせて伝える」「
幅広い年齢層の中で伝える」といった工夫が必要でしょう。伝承方法の構築もまた、食育リーダーに与えられた課題なのです。
愛知の食材を知り、郷土料理を知り、次世代への継承を考えるというこの講座。私自身もたくさんの発見があり、良い勉強をさせていただきました。機会を与えて下さった食育推進課の方々と、参加者の皆さんに心から御礼申し上げます。