日付が変わろうとする頃に、レノは相棒と共に本部へ戻ってきた。
鼻歌まじりで歩くレノとは対照的にルードは無言で彼の後を付いてきている。
それはいつもの光景となんら変わりはないものだったが、
彼らを見慣れた者からすれば赤毛の青年は少し陽気に振舞い過ぎだったし、
背後の青年は俯き加減で力なく見えたことだろう。
「あれ、ツォンさんかな、と?」
本社ビルから出てきた人影にレノが目を留めた。つられてルードがそちらをみると、
確かに特徴的な黒髪に長身な痩躯はツォンだった。
「今日はお休みのはずだがな、と」
「‥‥‥‥」
急な仕事でも入ったのかと言いながらレノが近づいていこうとすると、
ふいに背後から腕を取られて止められた。
「なに?」
「‥‥止めておけ」
胡乱気な表情でルードを見るレノに、彼は無言のまま首を振った。
説明する気はないようなので、どういうことかとツォンを見ると、
なるほど、彼の様子はあきらかに尋常ではなかった。
長身な体は、両腕で体を庇い、体を折っているせいで普段よりも小さく見えた。
怪我でもしているのか立っているのも辛そうで、ひどく疲れている様が見て取れる。
熱でもあるかのように呼吸を乱して壁に身を寄りかからせながら、まるで病人のような歩き方だった。
何かあったのかと駆け寄らなかったのは魔晄炉の光に照らされたツォンの顔を見たせいだった。
眉を寄せ、苦しそうに歪められた表情。だが同時に熱に浮かされた、
恍惚と言ってもよい程に虚ろな表情‥‥。
そういう表情をする理由には心当たりがあった。
そしてレノはツォンが誰のことを‥‥誰のことだけを、見ているかをよく知っていた。
「‥‥あー‥なんだ。‥あの人も損な性分だよな、と」
「‥‥‥」
ルードはレノの腕を掴んでいた手を離すと踵を返した。
「ルード?」
「‥‥飲みに行く」
「確かに、今日は本部には戻れなさそうだからな、と」
レノは呆れたようにため息をつきながらルードの背を追った。
どいつもこいつも不器用な奴ばかりだという言葉は、
目の前にいる男のためにかろうじて喉の奥へと飲み込んだ。
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