人は緩やかに変わっていくものだとヨリックは思った。
善し悪しはともかく、変化が万人にとって避けられない事象の一つに過ぎないのなら、
それは人という種族が負った運命のようなものかもしれない。
運命かとヨリックは自身の考えを嘲笑した。まったく、何と安っぽい言葉だろう。使い古され、
手垢のついた言葉は、声にするとひどく薄っぺらい三流品にしか聞こえなかった。
自分は変わっただろうかと考える。結論は考える間もなくすぐに出た。では彼はどうだ。
ああ、彼もだとヨリックは思った。鮮やかで鮮烈な太陽の光に照らされた
コスタ・デル・ソルとは対照的に、周囲から目立たず、後ろ暗い過去ばかりを持つ男は、
二年前とあまり変化のないように見せながら、それでも確実に変わっていた。
そういえば、この男を前にすると、俺は昔からリズムが狂う。おかしくなるとまではいかないが、
どうにもやりにくくて仕方ない。
「おい、俺はそろそろ行くぜ」
「……ああ」
上着をひっかけながら声を掛けると、どうでもよさそうな声でツォンは返事をした。
上半身を億劫そうにベッドから起こし、ガラスのように無機質な瞳でヨリックを見る。
「タークスに戻ってくる気はないのか?」
「おっさんやあんたの頼みなら聞いてやりたいところなんだが」
俺にも都合があってな、とわざとらしく溜息を吐くと、ツォンはそうかと言って視線を逸らした。
答えを聞いても特に落胆したわけでもなさそうなところを見ると、
その返事を初めから予想していたのかもしれない。
実際、予想していたんだろうなとヨリックは思った。そして、ふと思い浮かんだ考えに眉を寄せる。
「なんだ、おまえ。もしかしてそのために俺と寝たのか?」
「馬鹿馬鹿しい。人聞きの悪いことを言わないでくれ」
心底嫌そうな声だった。感情をあまり表に出さない男が珍しいなと思っていると、
最近忙しかったからそろそろ何とかしようと思っていただけだとツォンが言った。
「手近なところで?安易すぎやしねえか?」
「先に声を掛けたのはあなただろう」
「まあ確かに」
久しぶりなんだから飲みに行くぐらい付き合えよとバーへ誘ったのはヨリックの方だった。
それからしばらくどうでもいいような話をして、互いにそう酔ったわけでもなかったが、
成り行き上というか、場に流されてというか、とにかくホテルへ誘ったのも、
やはりヨリックの方からだった。
誘いをかけると、ツォンは嫌悪を示すでも興味を抱くでもなく、あっさりと了承してついてきた。
後は推して知るべしという展開だ。
「訂正しとくよ、ツォン」
訝しげな顔をするツォンに、ヨリックはニヤリと笑って言った。
「カタブツってのはオレの勘違いだったらしい」
「褒め言葉として受け取っておく」
ツォンは興味のなさそうな顔で返事をすると、無造作にシャツを羽織った。
そのまま立ち上がり、歩き出そうとして、突然ガクリと膝を折る。
「……っ!」
息を呑んだツォンが忌々しそうに舌打ちをした。ヨリックは深々と溜息をつきながら、
ツォンを下から支えるように脇から手を差し入れ、立ち上がらせた。
「あーあ、無理すんなって。手加減なしでやっちまったからな」
見るとツォンは、ひどく不機嫌そうな顔をしていた。
「早く洗い流したい」
「……おまえなぁ」
「仕方がないだろう。誰のせいだと思っているんだ?」
非難というよりは侮蔑の視線を感じる。まあ確かにそれを言われたら
俺には返す言葉はないとヨリックは思った。男だから別にいいかとスキンもつけずに抱いたのだが、
どうやらあまりよくなかったらしい。
しかし、何というか。愛ある行為とは言い難いとはいえ、あまりに余韻がなさすぎやしないか?
「洗い流したいってねぇ……」
もっとこう、言い方ってもんがあるだろうがと言うと、ツォンは嘆息した。
「まだあなたが中にいるような気がして居心地が悪い」
これでいいか、という言葉は最後まで言わせなかった。
羽織っただけのシャツを掴むようにして、ツォンをベッドへと放る。
声こそ出さなかったものの、痛みで顔を顰めるツォンの上に圧し掛かると、
ヨリックは悪いなと言って屈託なく笑った。
「今のは結構きたな」
下半身を押し付けると、ツォンは天を仰いで首を振った。
「信じられない。これで何度目だ?」
「ジジイみたいなこと言ってんじゃねぇって。まだ平気だろう?」
噛み付くように首筋に口付ける。ツォンは小さく呻き、ヨリックの髪に手を入れて掴み、
自分の顔の位置まで引き寄せた。
「なら早く終わらせてくれ。今日はこの後、任務がある……」
「俺をその気にさせたら早く済むぜ?」
「なら、そうしよう」
ツォンは薄く笑うと、ヨリックに口付けた。舌を差し入れまさぐりながら、
ヨリックの着こんだばかりのスーツに手を差し入れ、脱がしにかかる。
ツォンの愛撫に応えながらこれは意外な展開だなとヨリックは考えた。
初めて抱いた時は、ほとんど何も知らない若造だったのに。
体を開けば痛みに逃げるばかりで、抑え付けなければならなかったのが嘘のようだ。
あれからまだ二年しか経ってないのに、こんなにも人は変わるものか。
いや、二年もあれば充分か。
一生を左右する出来事が、たった一日で決まることだってあるのだ。
ヨリックは自身の運命を変えた昔の出来事を思い出そうとしたが、すぐに止めた。
そんなもの、今更思い出したところで意味がない。それより今は楽しみに溺れる方が得策だと、
ツォンの下半身に手をやり、昨日、散々弄んだ場所に指を入れて内側を探った。
「…あぁ」
ツォンの漏らした声に煽られ、ヨリックも熱くなる。
どうでもいいが、これは少しばかり癖になりそうだなと考えながら、
目の前の男を攻略することに専念し始めた。
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