「 一人 」

    《 戻 》





 デイビィ・ガージョンはホグワーツに来るまでは、どちらかと言えば 問題児というカテゴリに分類される子供だった。彼は近所では名の知れた悪ガキで、 彼のような問題児はそうはいないだろうと大人達は口を揃えてデイビィの噂をしたものだった。 両親はそんな彼の素行に手を焼いてはいたが、口では何と言おうとも世間一般の多くの親達と同様に、 我が子の事を深く愛していた。自分が愛されている事にデイビィは幼い頃から気付いていたが、 自身の内面を客観的に省みた彼は両親の望むような子供にはなれないと 早々と見切りをつけていたので、何度怒られても繰り返し悪戯を続けるという親の悩みとは裏腹に 自由奔放な生活を送っていた。
 まったくどうしてこんな子に育ったのか、と彼の母親はよく嘆いたが、 母親とは対照的に彼の祖母は、子供はこのぐらい元気があった方がいいと楽観視していた。 この時期のデイビィの最も良き理解者はこの祖母だった。彼は今でも祖母の墓参りはかかさないほど、 彼女に恩を感じている。
 そんなデイビィに転機が訪れたのは彼が十回目の誕生日を迎えた頃だった。 ある朝、一羽の梟が彼の家に手紙を落としていった。始めにそれを見つけたのは彼の父親で、 その手紙の宛先に自分の子の名前を見つけた彼は、まだ自室のベッドで深い惰眠を貪っていた デイビィのもとに手紙を届けた。寝ぼけていたデイビィはしばらくの間手紙を色々な角度から 眺めた後に、最近よく来る宣伝広告の類だろうと期待しないで封を切った。 しかしそれは想像と違い、彼の一生を大きく左右する物 _________________ ホグワーツの入学許可証だった。 そして彼の家はその直後から大混乱に陥ったのだった。
 デイビィの両親はマグルだった。始めは手の込んだ悪戯だろうと両親は一笑にふしたが、 祖母が朝食を取りに起きてくると事態は一変した。デイビィの祖母は魔女だった。 だが彼女はその秘密を決して人には漏らさず、家族にも隠していた。 どうして教えてくれなかったんだ、と彼女の実の息子である父親は 混乱しながら祖母を問い詰めたが、彼女は老齢の淑女らしく品のある笑い声を上げるという方法で 彼の問いを一刀した。デイビィの家では祖母だけが魔法使いの資質を持っていた。 ホグワーツを卒業する頃には彼女が魔女だという事を隠していた理由も朧気に 見当がついてくるようになったデイビィだったが、この頃はまだその理由を知らなかった。
 両親は混乱し、そして多くの欠点を持っているとはいえ、 最愛の我が子をどことも知れぬ学校へとやるのに反対したが、 祖母の根気強い説得に最後には納得した。 デイビィ自身が入学に乗り気だったのもよかったのだろう。
 入学の朝、母親はデイビィを抱きしめて頑張ってらっしゃい、と優しく囁いた。 父親はデイビィの頭を軽く叩いておまえならやれるさ、と力強く声を掛けた。 祖母は具合を悪くしていたので自室から彼が家を出るのを笑いながら見送った。
デイビィは初めて自分の家がとても暖かな人々で構成された家庭だということを実感した。


 今までのデイビィの世界はそれほど広くはなかったという事に、入学早々彼は気付く事になった。 彼の知る同じ年頃の友達といえば、皆その地方特有の赤みがかった茶色の髪に濃い緑の瞳を 持っていたし、共同体特有の仲間意識からなる連帯感を持った者達ばかりだった。 しかし、学校には多くの地方からの生徒が集まっていたので、 肌の色、目の色、髪の色とどれをとっても様々な様相を示していたし、 性格だって様々なありようだった。
 その中でもデイビィが一見で驚いたのは、同じグリフィンドールの同期生だった。 壁を背にして無表情で立っている彼を見た時、始めはよく出来た人形があるなと思い、 不思議に思ったが、すぐにそれが動き出すのを見て仰天した。 肩よりも少し長く伸ばされた黒髪に深い青の瞳、周りの生徒とはどこか違う洗練された身のこなし、 そして何より造詣の整った容姿は人目を惹きつけるには充分だった。 デイビィは同じ男なのにどうしてこんな綺麗な造りをしているのだろうと不思議に思いながら 彼を目で追った。彼の名前はシリウス・ブラックといった。次元の違う世界の人間のようだと 思ったが、彼は風貌だけでなく才能においても他を凌駕していた。
 しかし、こと資質という点ではそんな彼をさらに上回る人物が同期生にはいた。 シリウスと似たような黒髪を彼とは違って短く切りそろえ、人懐っこい瞳は、 好奇心で常に満ち溢れていた。彼は入学当初こそ人目を惹かなかったものの、 すぐに誰もが良い意味でも悪い意味でも知る有名な生徒となった。 彼はジェームズ・ポッターという名だった。ジェームズはまさに魔法使いになるために 生まれてきたような存在で、同時に人の上にたつ資質も備えていた。 誰とでもよく喋り、打ち解け、しかし誰の色にも染まらず飄々としている姿は、 知らず知らずのうちに人を惹き付けるものがあった。
 デイビィは自分で意識こそしていなかったが、彼の人物を見る目は客観的で正確なものだった。 それはマグルの世界で培った、子供同士の小さなコミュニティーの恩恵で、 他の何にも変え難い財産と呼ぶに相応しいものだった。
 デイビィは彼ら二人にそれぞれ種類の違うリーダーとしての資質を見た。 そして同時に彼らの性質は相反するものだと知った。不幸な事に、彼らはデイビィと同じ新入生で、 しかも同寮の生徒だった。一つのグループに二人のトップはいらないものだ。 デイビィは彼らが近いうちに対立するだろうと考えた。 そして、マグルの世界では自身も周りの子供を束ねていたこともあったデイビィは、 些かの悔しさを伴いながらも自分では彼らに勝てない事を充分に知っていた。 生まれ持った資質が違うのだ。そして彼らは自分達の持ちえた能力を熟知し、 またそれを少しも無駄にする事なく最大限に利用していた。 ちょっとばかり他人より優れているとはいえ、自分程度の凡庸な才能では勝てるはずもないと デイビィは慎重に判断した。彼のそういった冷静で抑えの利く処は、 ある意味二人を凌ぐ才能であるとも言えたが、彼がそれに気付くのはもっと遠い未来の事だった。


 大局を判断する事に長けたデイビィだったが、 そんな彼もまさか自身が彼らの対決の引き金を引くことになるとは予想もしていなかった。
 その頃のデイビィにはホグワーツに来て知り合い、付き合い始めた彼女がいた。 偶然授業で隣の席になったレイブンクローの女子生徒で、 ふわふわとした金色の髪に大きな瞳が特徴的な可愛らしい子だった。 デイビィは彼女の清潔で優しい笑みに一目で心を奪われた。
 彼の初めての恋は純粋で綺麗なものだった。彼らは昼を一緒に過ごし、 授業が重なる時は隣の席に座り、そして夕食の後には笑いながらまた明日といって別れるという 子供らしく微笑ましい恋愛をしていた。デイビィは幸せだった。 それは彼が初めて体験する特別な時間だった。
 彼女の様子が変わり始めたのは彼らが付き合いはじめて三ヶ月程経ってからの事だった。 ぼうっとした表情でいる事が多くなり、かと思えば何かを考え込む事が増えた。 一緒にいても上の空でいたり、以前よりデイビィと会う時間が少なくなった。 だから、他に好きな人が出来たの、と泣きそうな顔で彼女がデイビィに告白した時も、 彼は何となくそうだと思っていたと伝え、そして身を切るように切ない気分になりながらも 彼女と別れることを承諾した。
 一週間ほど授業に身の入らない日々が続き、 心配する友人達の暖かい励ましもありどうにか日常が差し障りなく過ごせるようになった頃、 デイビィは彼女がシリウスと楽しそうに歩いている姿を発見した。 初々しく彼女に触れる事も躊躇っていた自身とは違いシリウスはさりげなく 彼女の肩に手を廻してリードしていた。それはとても様になっており、デイビィは深く落ち込み、 そしてどこか別の処では諦めもしていた。彼になら仕方ないと本気で思っていたのだ。
 しかし、それからさらに一ヶ月程経った時には、デイビィは自分の考えを改めざるを得なかった。 ついこの間まで幸せそうにしていた彼女が、落ち込んだ様子で授業に出てくるようになったのだ。 まだ未練のあったデイビィはどうしたのだろうと彼女に声を掛けると彼女は一瞬驚いたものの、 すぐに笑いながら振られちゃったと気丈に答えた。
 それは彼が経験した事のない程の怒りだった。 シリウスは談話室にいると聞いたデイビィは普段の冷静さをかなぐり捨てて彼ももとへと向かった。
 乱暴に扉を開け、シリウスの名を怒鳴りながら呼ぶと、座って本に目を通していたシリウスは、 ひょいと視線をデイビィに合わせた。
「何‥‥、えーと、あんた誰だっけ?」
 見た事はあるんだけどな、とシリウスは言い、そしてデイビィの隠しようもない怒りを見て 不思議そうに首を傾げた。
 自分という人間を彼は知らなかった。 特に話したこともないからある意味当然かもしれなかったが、デイビィはそれが腹立たしかった。 取るに足らない相手だと言われたも同然だった。
 シリウスが喧嘩に長けた相手だという事をデイビィは知っていた。 彼の目立つ容姿や斜に構えた態度が気に入らないと上級生に喧嘩をよく吹っかけられていた シリウスは、今までに一度の例外もなく彼らを返り討ちにしていた。 屈強な相手が何人いても彼はそうだったのだから、 特に鍛えているわけでもない自分一人では勝てるはずもない。 しかし、自分が勝てない事を自覚してなお、デイビィは彼を殴らなければ気がすまなかった。 それはもちろんデイビィ自身の気持ちもあったが、 同時に彼女に対する彼なりの思いやりでもあった。
 つかつかとシリウスの傍まで歩いていくと、周りにいた生徒達がデイビィのただならぬ雰囲気に 気付いて道を開けた。シリウスも自分に向けられた明確な敵意を感じ取り、 読みかけの本を放り出してデイビィを同じように敵意のある眼差しで見つめた。
 あと数歩という距離まで行き、彼を殴ろうと拳を振り上げた瞬間、デイビィの手は動かなくなった。 冷静さを失っていたせいで、それが誰かに腕を掴まれたせいだと気付くのに数秒かかった。
「キミの怒りは正当だ」
 凛とした声が隣から響いた。慌てて振り返るとそこにはジェームズがいた。 いつも悪戯っぽく笑っている彼が珍しく真剣な双眸をしてデイビィを見つめていた。 掴まれた腕を持っていたのはジェームズだった。
 怒りのやり場を失ったのはデイビィだけではなかった。 シリウスもまた毒気を抜かれたような表情をして自分達を交互に見た。 ジェームズはゆっくりとデイビィを掴んでいた手を離し、 そして次の瞬間にはデイビィの腕を掴んだ方の手とは反対側の手で 勢いよくシリウスを殴り飛ばしていた。
 呆気にとられたのは、談話室にいた生徒達とデイビィ、 そして殴られた当の本人シリウスもだった。 ジェームズは涼しい顔をしながら殴った手をひらひらと振って ちょっと痛かったなと事も無げに言った。 殴られた反動で後ろの床へと倒れ込んだシリウスだったが、さすがにすぐに起き上がり、 先までデイビィに向けていた敵意を今度はジェームズに向けた。
「ジェームズって云ったな、おまえ‥‥」
 怒気を滲ませた、低く掠れた低音でシリウスが問うと、ジェームズはうん、と一度頷いた。
「シリウス、キミは少し傲慢だね。一度因果というものを知るといい」
 ジェームズの声はシリウスとは対照的に淡々とした感情の篭らないものだった。 それが余計にシリウスの癪にさわったのだろうと思う。 だから彼らが取っ組み合いの乱闘を始めたのも流れとしては当然で、不思議には思わなかった。 ただ、そのきっかけを作ったのが他ならぬデイビィ自身だという事だけが、 彼にとって意外なものだったのだ。


 デイビィがジェームズを呼び止めたのは、あちこちを殴られたせいで痛む体を 引きずるようにしていた彼が自室に戻ろうとした時だった。ジェームズはどこか浮かされている ような熱の篭った瞳をしていたので、始めはデイビィの呼びかけにも気付かなかったが、 何度か名を呼ばれた後にようやく振り返り、ああキミかと今度は屈託のない笑顔で答えた。 上りかけた階段を下まで戻り、デイビィの近くまでよってくる。 傍で見ると彼の体は生傷だらけだったが、先ほどのようなどこかぼうっとした表情はなく、 しっかりとした瞳と口調だった。自分の見間違いかと思ったデイビィだったが、 今はそんな些末事より気になることがあった。
「怪我‥‥平気かい?」
「ああ、平気。これくらい大したことないよ。心配してくれたんだ、ありがとう」
「だってあれは‥‥」
 もとはといえば自分のせいなのだから、とデイビィが続けると、 ジェームズはきょとんとした表情でそれを聞き、ああそうだったねと言った。
「きっかけはそうかもしれないけど、喧嘩は僕が勝手にやった事だから気にしなくていい」
「そういうわけにはいかないよ。僕にも責任がある」
 きっぱりとデイビィが言うと、ジェームズはニヤリと人の悪い笑みを浮かべて 「それじゃあ談話室で騒いだ罰として明日掃除をやれってマクゴナガル先生に言われたんだけど、 手伝ってくれるかい?」といった。もちろんとデイビィは一も二もなく頷いた。 その程度の負担は喜んで引き受けるところだ。むしろ全部自分がやってもいいと言うとジェームズは、 それだと僕がさらに怒られることになるよと言って笑った。
「ポッター、キミは‥‥知っていたのか?」
 自分がシリウスに怒りを持った理由を、と暗に意図するところを隠したが、 ジェームズには通じたようだった。
「知っていた。解っていた。だから僕が殴った。いずれそうなるはずだった」
「解らないよ。どうしてキミが殴る必要があるんだ?」
「‥‥キミの怒りは正当だと、僕が言ったのは覚えている?」
 デイビィは無言で頷いた。
「でも正当だからといってそれがいつでも効果的だとは限らないんだ。キミには殴る権利があった。 だからキミがシリウスを殴ってもよかった。でもそうしたところで彼には敵わなかっただろう。 彼はきっとあっさりキミを返り討ちにして、それからもっとあっさりとキミの存在を 忘れてしまうだけだ‥‥いや、それはいい。この際それはいいんだ。 問題は_________________‥‥ 」
 ジェームズは一度言葉を切り、考え込むような態度を取った。しばらく沈黙が続き、 静寂が彼らを包んだが、デイビィは根気強くジェームズの言葉を待った。ややあって、 ジェームズがようやく顔を上げて言葉を繋いだ。
「それでは通じないということなんだ。彼のような奴にはそういう怒りの持っていきようでは 通じない。通じないという事は反省もない。決定的にキミとの溝を深めるだけだ」
「溝を深める?」
 何を云っているのだろう、とデイビィは首を傾げた。 深めるも何も自分とシリウスとの間には何もない。 あるとすれば今日のすれ違った対立の感情程度だ。だが、デイビィの訝しげな顔を見たジェームズは、 軽く笑った。
「キミとシリウスは仲良くなれる気がするよ」
「ありえないね!」
 今度こそ仰天したデイビィは、反射的に声を荒げて反応した。 その剣幕に、ジェームズは一瞬驚いて目を丸めたが、でもデイビィ、 と彼は少し困ったような声を出した。
「キミは信じないと思うけど、彼は‥‥シリウスはそんなに悪い奴じゃない。 むしろあれはどちらかと云えば人の良い、正義感の強いタイプだよ」
「信じられない」
 今度もデイビィは即答する。ジェームズはそれには逆らわず肯定するように頷いた。
「才能と環境、そして挫折を知らない心が彼を傲慢にしているだけだ」
 そしてまた、彼が声を掛けた時と同様に熱の篭った表情をした。
「今にわかる」
 声を荒げる風でもなく力強く言われたわけでもないその静かな声は、 デイビィの耳朶を打ち、いつまでも耳の奥にこびり付いて離れなかった。


 実際、その数日後にはジェームズの言った事が正しかったのかもしれない、 とデイビィは思い始めるようになった。
 その日の夕食後、数日後にせまった薬草学の宿題を片付けようとしぶしぶ図書館へと 向かおうとしたデイビィを、シリウスが呼び止めた。苦虫を噛み潰したような表情で、 少し時間いいかと聞かれたので、てっきりこの間の消化不良の喧嘩を買われたのだと思った デイビィだったが、人気のないところまで来てシリウスが言った言葉は全くの逆ものだった。
「悪かった」
 神妙な顔でシリウスは謝るシリウスに、デイビィはつかの間呆気にとられた。 彼の沈黙を否定的に受け取ったシリウスは言いにくそうに言葉を続けた。
「ジェームズから聞いた。その、そういうつもりじゃなかったんだ。オレ知らなくて ‥‥おまえがあの子と付き合ってたっていうのを、本当に知らなかったんだ。 だから‥‥いや、こんなの言い訳だな、くそっ!」
 乱暴に自分の髪をくしゃくしゃと引っ掻き回したシリウスは、 すっと息を吸うと覚悟を決めたようにデイビィを正面から見据えた。
「おまえの気の済むようにしてくれ」
「殴らせろっていったら?」
「構わない」
 きっぱりとした口調には一片の躊躇いもなかった。 普段の軽薄な彼からは想像もしなかった潔い態度に、 デイビィは少し意外に思いながら拳を振り上げた。しかし、 何故かこの間の目も眩むような怒りは少しも湧いてこず、 代わりに目の前にいる不遜な態度ばかりしていた彼の常に無い殊勝な様に 不思議な思いを感じるだけだった。
_________________ 止めておくよ」
 拳を下ろしたデイビィを怪訝そうな顔でシリウスが見る。 それ、とデイビィはシリウスの捲くった袖から見える痣だらけの腕を指差した。
「僕の分以上にポッターがあんたを殴っただろ?」
「まあな‥‥派手にやられたよ」
 苦笑しながらシリウスが答えた。デイビィもつられて笑みを零した後に、 俯きながら神妙な声でシリウスに告げた。
「本当は、僕なんかが口出しする事じゃなかったんだ。 僕が彼女に振られたのは僕にも責任があるのと同じように、 キミが彼女を振ったのも彼女に責任がないわけじゃないんだろうから。 当人同士の問題なんだろうな。僕が勝手に横から口出しする筋合いはなかったんだ。 僕のこの気持ちは‥‥ただの嫉妬だ。ごめん、ブラック。悪かったよ‥‥」
 本当はあの時から気付いていたのかもしれない。 どこか破綻した理屈を感情で覆い隠して彼にぶつけたかっただけなのだろう。 ジェームズは正当な怒りだといったが、少なくともそれはデイビィ 自身の感情の事ではないと思った。目を背けたい自分の暗い部分を知り、 自覚するのは辛い事だったが、目の前にいるプライドの高い誠実な男の殊勝な態度を見ていると、 自分の浅慮な矜持など取るに足らない事のように思えた。
 自分の気持ちにケリをつけた後は妙にさっぱりとした気分になったので、 俯きかげんだった顔を上げてシリウスを見た。 すると彼は目を見開いたまま何か珍妙なモノでも見るように驚いた顔をしていた。
「何だよ?」
「いや‥おまえさ‥‥」
「何?」
 問いかけには、首を振ってシリウスは笑った。 そして胡乱気な視線をおくるデイビィに右手をすっと差し出した。
「ブラック?」
「シリウスでいいよ、なぁ、デイビィ。オレとは友達になれそうにないか?」
 彼の真直ぐな視線には、今度は先のような緊張感の漂う覚悟はなく、 代わりに期待と好奇心で満ちた目をしていた。 シリウスの斜に構えた態度しか見たことのなかったデイビィは驚きながらも しばらく彼の右手に視線を落とし、そして口の端を上げて笑みを浮かべた。
「始めはそう思ったけど _________________ 今はどうかな、 分からないよ。チャレンジしてみてもいいな」
 右手を取り、彼と握手を交わす。 つい数日前まではこんな風に彼と対峙するとは思いもよらなかったと正直に告げると、 シリウスはオレなんかおまえの名前も知らなかったよと笑い出した。 以前ならかっとなった台詞だったが、今では気にもならない。 初めて自分に向けられたシリウスのどこか無防備で信頼の見え隠れする態度が デイビィにそう思わせていた。彼のそういった快活さを心地良く感じ取り、 そしてジェームズはこういう展開を予想していたのだろうかと考えた。








 5巻未読なので出てきてたらごめんなさい。というか、悪役 で出てきたらどうしよう‥‥(笑)



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