「 Tactics 」

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 どうにも彼らはあまり相性が良くないのかもしれない、 とシリウスは彼らの間に流れる不穏な空気を読み取りながら考えた。 実際はあまりどころか、決定的に相容れない理由があるのだが _________________ それが自分にあるという事には全く気付いてはいなかったが _________________ ジェームズに対してもレギュラスに対しても幾分贔屓目があるので、 普段はどちらかといえば諍いや対立に敏感なシリウスにしては珍しく事の本質を見誤っていた。

 シリウス・ブラックには自身が弟に甘いという自覚がなかった。
 彼にとって数歳年下の弟は初めて彼の身内に現れた「守るべき者」だった。 理解のない家族の中でシリウスはレギュラスが生まれてからずっと彼を保護することを 自らの義務と課していた。
 しかしそれは裏を返せば彼自身が家族の愛を受けられなかったことに対する 代替行為でもあった。シリウスは誰かに愛を与えれば大抵の場合自身にも似たような情が 返ってくることを知っていた。それが無垢な者なら尚更その傾向が強いということもわかっていた。 シリウスがレギュラスを普通の兄弟以上に過保護に扱ったのには そういう一面があったことも否定できない。
 レギュラスにしてみても、無償の愛を与えてくれる相手は兄だけだったので、 当然のようにシリウスになついた。あまり血族以外に付き合いのない 閉鎖的な環境も彼らの結びつきを強くさせる原因だった。 親に求めるべき愛情を互いに求めるしかなかった環境は行き過ぎた過干渉を招く結果となった。
 ただ、あれこれと思惑があったにせよ、 シリウスが打算ばかりでレギュラスに接してきたわけではなかった。 むしろそれ以外の部分の占める割合の方が多いといっていい。 少なくともシリウスはレギュラスに対して何ら後ろめたい感情は持っていなかった。 だからシリウスが弟に対して持つ愛情は兄弟としては極めて密であったが、 質としてはノーマルなものだったのだ。
 しかし、これがジェームズに対してだと多少事情が違ってくる。
 ジェームズ・ポッターは、シリウスにとって初めて対等に接することが出来る相手だった。 今ではもう何年来の親友のように互いを認めている彼らだったが、 出会った頃の二人は決して気の会うタイプとは言えなかった。 彼はシリウスとは違い良家の出身ではなく、 どちらかといえば平均よりも少し庶民的な家に育っていた。 彼らの表面的な差異がそれほど大きかったわけではない。 だが表層に現れない内面的な部分では大きな違いがあった。 まさにその部分が今の二人の関係を決定付けたものでもあった。
 ジェームズは愛されることを知っていた。それはシリウスやレギュラスのように 屈折したものを含んではおらず、誰に説明しても 恥ずかしくないぐらいに純粋で強固なものだった。
 シリウスにとってそれはある種の脅威に等しかった。 愛されることが当たりまえという感覚が理解できなかったからだ。 そしてそれ以上に驚いたのは愛されることを知っている者は愛されないことにも 平気だという事実だった。それは今まで自分を必要とされることに 飢えてきたシリウスにとってはにわかに信じ難いことだった。 ジェームズは少数の理解者 _________________ 両親や友人など、の理解さえあれば大抵の無理解には平然としていられる者だった。
 初めに感じたのは激しい怒りだった。その感情が嫉妬だと気付き、 敗北感と共に受け入れた後に残ったものは 自分も彼の境界線の内側へと入りたいという渇望だった。
 不思議なことに、シリウスがジェームズに興味を持つのと時を同じくして彼の方も シリウスに対して興味を持ったようだった。内面的なことに対しては 自分にほとんど何の価値も見出していなかったシリウスは、 ジェームズが好奇心を隠さずによって来る事に戸惑った。 だがそれもしばらくのことで、次第に隣に彼が来るのに慣れていき 互いに一番と呼んでも良い程の友人になるのにそう時間はかからなかった。
 居心地の良い「親友」という関係を変化させた理由については今でもよくわからない。 気が付けばそうなりたいと欲しただけだとしか説明出来そうにない。 シリウスは自分の中にある貪欲な欲求を押さえつけようとは思わず、 拒絶されるのを覚悟でジェームズに想いを打ち明けたのだった。 そんな気持ちを自分のものとして当然のように捉えたことに意外な思いは全くなかった。 そうであることの方が自然のような気がした程だ。 むしろシリウスが意外だったのは同性への愛情を ジェームズがあっさりと受け入れたことだった。
 あの時、ジェームズは少しいぶかしげな顔をして一度だけ「冗談かい?」 と尋ねた。シリウスがそれを否定し本気だと告げると「そうか」と 何か考え込むようにして答え、しばらくの沈黙の後に承諾の言葉を返した。
 ジェームズがシリウスの気持ちを疑うような言動をしたのはこの時が最初で最後で、 それから先、言葉も気持ちもシリウスの何一つとしてジェームズが疑ったことはなかった。

 感情に違いはあっても、シリウスにとっては二人とも大切な人物に違いなかった。 それは彼らに同じ舞台で比べることの出来ない別々の感情を持っていたからでもあった。
 しかし実際は彼らがシリウスに抱いている感情は寸分違わないもので、 シリウスの言うところの「あまり相性が良くない」という事態に陥っているわけだったが、 それもシリウスの理解からは遠く離れた場所にあり、まだ当分は思いもよらないことだった。
 そしてそのことはシリウス自身よりもジェームズやレギュラスといった もう片方の当事者の方が充分に承知している事実でもあり、 それがまた事態を一層ややこしいものにしているのだった。








残りあと1つ。リーマスサイドからで終了。


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