「 Tactics 」

   《 戻 》





 ジェームズ・ポッターは話半分で聞き流している占い学の教科書に没頭している振りをしながら レギュラスの憎しみを押し隠した上辺だけの愛想を思い出し、ふと笑みを零した。
_________________ あれで隠しているつもりなんだから、可愛いなぁ
 幼いと言い換えてもいい独占欲と倒錯的な思慕を含んだ感情を併せ持ったレギュラスは、 あらゆる意味でジェームズの想像を裏切る人物だった。
 来期から弟が入学してくるとシリウスから聞いた時、ジェームズは自分の耳を疑い、 妙に上擦った声で「キミに弟がいるのか」と問い返した。
「‥‥想像つかないなぁ、どんな子?」
「どんなって、まぁオレと同じような外見で‥」
「双子みたいなカンジ?」
「そこまで同じじゃねーよ‥似てるとはよく言われたけどさ」
 あいつは、とシリウスが懐かしむように語ったレギュラス像は 「甘えたがりで淋しがりや、要領は良いがやや周囲に流されやすい」というものだった。
「‥‥どこがだ?」
 記憶から先程のレギュラスを引っ張り出す。確かに要領は良さそうだが、 その他は現実と認識にズレがあるように思えた。
 「甘えたがりで淋しがりや」なわけではない。あれはシリウスを相手にした時だけとる 演技を含んだ態度だ。彼が「周囲に流されやすい」とはとても思えない。 どちらかといえば我の強い、傍若無人なタイプだろう。
 だが何よりジェームズの予想を裏切ったのはレギュラスが兄に向ける視線だった。
 シリウスは気付いていない。おそらく想像すらしていない。
_________________ 彼はキミに惚れてるんだよ‥‥
 隣の席であくびをかみ殺しながら水晶を覗き込んでいるシリウスに視線を向ける。 まさか自分が事の中心にいるとは思っていないシリウスは呑気そうな顔をして _________________ それは些かジェームズの主観が入ったものではあったが _________________ 睡魔と戦っていた。
 ジェームズは自分の中に、ある種、病のような手のつけられない感情があることを知っていた。 それが「恋」と呼ばれるものである事も自覚している。レギュラスの隠された想いに 気が付いたのもまさにそれが原因だった。自分と同じ種類の視線を見逃せるほど ジェームズに余裕があるわけではなかった。
 ジェームズがシリウスと友情以上の関係を持ったのは今から半年ほど前の事だった。 想いを伝えたのはそれよりもさらに数ヶ月遡ることになるので、 どちらかといえば事を進めるのが早い彼らにしては随分と遠回りをしたことになる。
 だがそれも仕方がない事だとジェームズは考えた。 友人として付き合ってきた時間を経ての関係は今までに経験したことのないもので、 友情とも愛情とも断定出来ない曖昧な境界はどちらを選ぶにしても 越えることがひどく困難だった。
 何人もの相手を遊び歩いてきたシリウスにしてもそれは同様だったらしい。 普段は饒舌で手際の良い彼にしては珍しく歯切れも悪く、戸惑いながら触れてきた姿は 常の彼からはあまり想像出来ないものだった。
 それはジェームズが逃げるのではないかと疑っているように押さえつけながらの行為だった。 全身で感じる熱に翻弄され、不安と安らぎという矛盾した感情を抱えながら、 ジェームズはシリウスを受け入れた。まだその頃は痛みばかりの行為だったが、 彼と繋がる事を嫌だとは思わなかった。しかしシリウスは何度も詫びの言葉を口にし、 それ以上に愛しているのだと聞いている方が恥ずかしくなる程の 言葉を飽きることなく繰り返した。
 言葉は回数を重ねるごとにジェームズの内へとしみ込むように広がっていった。 他人を受け入れる行為に多少は残っていた躊躇も、繰り返される言葉の前に徐々に氷解していった。 ぎこちなくではあったが自分からも愛しているのだと言葉を返せるようになったのは、 そんなジェームズの内面の変化の表れだった。
 ふと思い出しても身体が熱くなるような想いにジェームズは狼狽した。 彼の一挙一動に目が行き、声を聞く度に心が震える。 彼に属するものには明らかに平静でいられない自分がいる。 恋愛とはこういうものだっただろうかと思い、 レギュラスに対して強く出られない理由もそんなところにあるのだろうと考えた。 彼の性質がシリウスとは随分違う _________________ 全く逆といっても過言ではない程に違う _________________ ことに気付かないわけではない。 しかし、通じたばかりの想いに戸惑っているジェームズにとっては、 たとえ外見だけとはいえ彼とよく似たなりをした者に冷静な判断が出来るものではなかった。
 本当に、レギュラスは、驚くほどシリウスに似ていた。整った容姿や、 癖のない艶やかな黒髪、自信に満ち溢れた言葉や、斜に構えた態度など、 ホグワーツへ入学したてのシリウスとほとんど同一のものだった。 彼は否定したが、歳が同じなら双子といっても過言ではなかった。
 昔のシリウスを見ているようだと珍しく感慨にふけってしまったのは、 恋愛経験の乏しいジェームズにとっては仕方のない事かもしれなかった。








ジェームズサイドからはこんなカンジかしらね。ブラック家には甘い鹿ちゃんなのですよ。


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