ある欠乏
欠乏のなかから私は求めた 私の欠乏の標を 私はその手にしたものによって その行為によって 罪悪を私の欠乏の標とした いくど私は求めただろう 私の確かな階(きざはし)を 私を埋める実りへと いくど手をさしのべただろう 私をささえ引き上げて 幸福という名を与えてくれる そんな確かな手掛かりを だが 私の手は消えたのか 私の足は消えたのか いくど踏み締め いくど伸ばしても ただ空しくそれは在るばかり だがそれは在るのだろうか 私はいったい在るのだろうか 私は在ることの証のために この手に罪をつかんだ この心に恥を吹き込んだ だが私の足はまだない 私の足はどこにあるのか 私は私の足のために何をすれば良いのか 独房の檻の中には何もない ああ在るとはいったい何なのだ それはいったい在るのだろうか それとはいったい何なのだわたしはいったい何なのだ それは私ではない何かなのか たしかに私はそれではないと 見えない足のどこかで それが叫んでいるのだから 私はそんな気のする ある欠乏なのか
失われたものを人は捜すという ないものを求めて人は生きるという ほんとに人は何を求めているのだろう 忘れたいことにも囚われて生きる人もいる 良いことばかりを思う人もいる 楽しみばかりを捜す人もいる 人間は自分のことは自分でするんだよといっても やはり人は人のために生きるのだろうか 人間は一人では生きられない それも真実だから そんな矛盾のなかで人間は振り子のようだ 絶対的なことなんてないんだよ 確かにこれだと言えるような事実だってありはしない それじゃ人間は何のために生きているのかわかりゃしない 何が正しいのか話せないなら 人は何を語ればいい 振り子さ 振り子だよ 振り子はチックタック チックタックとそれ それでも語っている 人間は語っている だがほんのちょっぴり いつでもちょっぴりしか語らない どんなおしゃべりでも 一生のうちでほんの少ししか話すことはないものさ
あとは沈黙 ただ沈黙だけが語っている