とろんとした表情のまま熱の余韻に身を浸していたジェームズは、
シリウスの動く気配を感じて意識を現実に戻した。じっとりと汗ばんだ互いの肌に張り付いていた
彼の長い黒髪が遠ざかり、抱きしめるように覆い被さっていた体をゆっくりと離されると、
まだ繋がったままの場所から去ったはずの熱が戻ってきたので、掠れた声をあげた。
敏感になった体を強張らせるとシリウスの手がジェームズの額に掛かった髪を掻き揚げ、
今日何度目かのキスを落とした。
「すごくよさそうだったな?」
意地の悪い笑顔で聞かれたが、それに反論する気も起きずに気だるい視線のままニヤリと笑う。
するとシリウスの方が赤くなってぶつぶつ何かを言いながら視線を逸らせた。
「シリウス‥‥」
肘をついて上半身だけ起こす。両手をシリウスの肩へと滑らせ、
逸らせた視線を自分の方へと戻すと口付けを交わした。何度も軽く触れた後に深くしようとねだると、
シリウスは慌てたように体を離した。
「‥こらっ!」
そのぐらいにしておけと続けたシリウスだったが、それがジェームズの体を気遣ってである事は
わかっていた。現にジェームズの内側にある熱は今の口付けに反応していたのだから。
「僕ならまだイイけど?」
「 _________________ 気失うまでしておいて、まだそんな事が言えるのか‥‥」
シリウスが溜息をつき、肩へとまわした腕をゆっくりと外される。
どうやらこれ以上は無理らしいと悟ったジェームズは、再び背を床へと下ろし、体を投げ出した。
大理石を積み重ねて出来た無機質な床は、まだ微かにジェームズの熱を移したままで、
身体を冷やすには暖かすぎた。
「力抜いてろよ」
言葉の意味を知り恨みがましい視線を送るが、シリウスは意に介さない。
しぶしぶ全身の力を抜くと宥めるように一度頬を撫でられた。
「‥‥んっ」
下肢から引き抜かれる感覚に背筋をぞくぞくとした震えが走る。
辛うじて声をあげる事だけは抑えたが、まだ残っていた熱がじんわりと体を侵食して
息が荒くなった。ごろりと横へ転がり、熱を移していない冷たい床へと全身を当てる。
これぐらいの小さな燻りならば、そうする事で治まることをジェームズは知っていた。
先を望めないのなら、手早く冷やした方が楽だったので、しばらくそうしていると、
徐々に熱が鎮まってきた。
「平気か?」
「 _________________ うん‥‥」
疲れた声では説得力もないだろうと思ったが、それを隠すだけの余裕もない。
案の定気遣うような表情をしたシリウスに心配性な奴だと溜息をつく。
彼のそういうところはたまに呆れる事があった。
ジェームズ自身が欲しいと望んだ行為だというのに、無理だと思ったなら殴ってでも
止めさせているのに、いい加減にそんな表情をするのは止してほしいものだ。
しかし、今の状態は自身でも言い訳がきかないかな、とジェームズは考えた。
何せ体を起こすのも億劫なほど消耗している。これではシリウスの過剰な心配を非難することなど
出来やしない。
事後の始末をしなければなとぼんやり頭の片隅で考え腕を動かそうとしたが、
片手を軽く持ち上げただけで後は力なく床へと落ちた。のろのろと何度も繰り返すが、
どうしてもそれ以上先へは進めない。体に上手く力が入らず、
生まれたての赤子にでもなったような気分だった。
「オレがやるって」
上から降ってきた声に視線をやると、シリウスはもうすでに自分の後始末は終えて、
服も正してあった。相変わらず手早い事だと思いながら自分でやるよと反論しようとしたが、
それより早く足を広げられる。濡れた場所に触れられると、抵抗する気は霧散し、
どこかへ消えてしまった。周りを丁寧に拭われる仕草に頬が紅潮するのが分かる。
先程までその手で散々煽られていたのだと考えると何だか居たたまれないような、
気恥ずかしい気持ちになった。
「‥‥何だか‥恥ずかしいなぁ」
「オマエが?珍しい」
「何だよそれ、僕だってっ‥‥あぁ、っ」
内側を掻きだされる感覚に慌てて口を塞ぐ。そういうつもりで触れられているのではないと
分かっているのに、体の反応を抑えられない。鎮めたばかりの熱がじくじくと
疼き出す感覚に、人の気も知らずにと恨みがましい気分になり、閉じたままの目に涙が滲んできた。
「いいな、それ」
シリウスの揶揄するような声音に、ぎゅっと閉じていた瞳を開けると、
彼のどこか楽し気な表情が目に入った。
「僕の方は‥結構っ、辛いんだ、けど?」
声を抑えながら途切れ途切れに言うとシリウスは肩をすくめた。
「らしくない我慢なんてしてるからだよ。もう一度楽になっておく?」
一人でなら自分でするから別にいいと言ったが、シリウスは聞き入れずに片手でジェームズを
起こして抱き寄せ、もう片方で先程から反応をあらわしていた場所を握りこんだ。
触れられた手の熱さにびくりと体を震わせ反射的にしがみつく。
「うん、そうしてろよ」
先立ってのからかうような響きではなく、優しく諭すような声にジェームズは諦めて
後ろにまわされた手に身を預けた。それを確認したシリウスは握った手を動かし、
残り火を煽るように駆り立てた。
緩慢とした動きに合わせて吐息のような声が漏れる。
繋がっていた時のような全身が総毛立つような感覚が再びジェームズ襲った。
「なぁ、シリウス‥‥」
息の荒い声で問い掛けるとシリウスが首を傾げてジェームズを覗き込んだ。
「何?」
「あのさ、僕に‥‥っん‥ぁ」
指の動きに刺激され、ぞくりと体を震わせ言葉が中断される。
「待って。先に終わらせるから」
それはジェームズとしても有り難い提案だったので、こくりと頷くと瞳を閉じて際限なく
湧き上がってくる心地良さに身を浸す事にした。シリウスの長く、
整った指が一定の間隔で動いているのを敏感になった体は直接感じる。
親指の腹で先を擦られる度にかろうじて残っていた理性が一枚一枚剥がされていくようだった。
ジェームズを支える腕にも力が入り、シリウスも熱くなっていることを知る。
だからもう一度しよう、とジェームズは言おうとしたが乱れる呼吸にそれはかなわなかった。
もう理性もなく、追い詰められる度に声を出し、顔を押し付けて続きをねだる。
いつも体を重ねる時になるような自分でも抑えられない荒々しい何かが全身を支配し、
それから先はそれの望むように快楽を満たす事だけを考える事にした。
シリウスはそんなジェームズの変化を見て取ると、より強い刺激を与えて手早く駆り立てた。
喉の奥から掠れた声を絞り出すようにジェームズが小さく声をあげてシリウスの
手の内に精を放った。体が断続的に震え、全身が熱く脈打つ。
力を込めて掴んでいたシリウスの腕にうっすらと痣のようなものが出来たが、
ジェームズにはそれに気付く余裕もなかった。だがシリウスの方も文句を言うわけでもなく
ジェームズのいいようにさせていたので、彼にとっても取るに足らない事だったのだろう。
ジェームズの体から力が抜けた頃、シリウスはゆっくりと大きく呼吸をし、
少し乱れた自分の呼吸も整えると、手の内にあるジェームズの放ったものを口元へとあて、
ゆっくりと舌で舐め取った。手から零れたそれは腕を伝ったが、
床へと落ちる前に唇を当てて啜ったせいで床を汚す事はなかった。
まるで飢えた獣のように一滴残らず飲み干そうとする様は、
彼の苛烈な執着心の表れのようだとジェームズは思った。
普段からシリウスの独占欲を感じることはあったが、それでも今のような時、
互いに肌を重ねる時のそれは病的とも思える程だった。ここには誰もいないのに、
とジェームズは思う。物理的な事だけではなく、精神的な事も含めて、
互い以外には誰一人としていない空間なのに。だからそんなに心配する必要はないのに、と。
しかし呆れる心とは裏腹に、一方ではそんな彼に満足してもいるのだった。
言葉以上に如実に表される行動の数々は、歪んだ思いだという自覚を持ちつつ、
確かに安堵も含んでいた。それはジェームズの芯に何より効果的に訴えかけるやり方だった。
だからシリウスのそういうあまり健全だとは言えない部分にも、安らぎこそすれ、
嫌悪を感じることはただの一度としてなかった。
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