轢死
殺されたと
愚かなことはいわないでくれ
死んだんだよ
とこの上に死ぬのと同じに
愚かなゆえに 死んだんだよ
あゝ暖かい春だねえ
私の体は黄金にひかり
のんびりした大空に
長々と寝そべったようだ
おやおや私は
透き通った霞の上に乗っているんだろう
水車だけは働きものだ
それでも夢を見てるんだろうか
マツリカの花咲いて
ズンズン咲いて
ゆたかにゆれて
山下の 百姓さんが
ピョンピョンとんで
大口あけて
鍬をちょっと光らせて
アケビのかげにきえてった
山と空はスローに目尻をよせた
小さな流れは
黒水晶のつぶらな瞳を
そっと開き
やさしく声をたてて
ほんのすこし小袖をふって
遠慮深げにさかしげに
青い山はずれの湖
大きな赤い太鼓橋の
紅の恋を思いうかべる
田も道も 樹林の影も
なにかのどかな夢を見ているようだ
ぼんやりと
黄金の張り子のこの世の中は
猫が長々と背伸びして
ふと
燃えた琥珀の上
怪物トラックが
よぎり
おそらく
美しい血が流れる
死んだんだよ
殺されたんじゃない
愚かなために
なにも知らない
自然のために