狂女

つまづいて　つまづいて
笑いつつ　悲しげに
笑いつつ　狂い女(め)は
どこへ行く
お待ちよ　あれはお前の
恋ではない
あれはただ　妻を求める
妻を求める
雁音(かりがね)を月夜に求め
静かなる　闇にさすらう
冷たく　腐る
森の木の間に
はてもなく　はてもなく
洞なす闇を　飛びかけり
狂い女よ　なにに惑う
氷りたる　うじ虫の
黒土も　冷たく光り
音もなく　形(かた)もなく
黒金の　燃える肌した
黄金(こがね)の髪の
笑う　地底　蜘蛛の巣
見えず聞こえず
あてもなく
草間に　転(まろ)び
蔦に這い
狂い女は　哀れなるかな
うるわしの　肌も失い
うるみ宿す　瞳潰(い)え果て
ただ　弦月に宿る
雁音とも　知らず
骨皮に　炎の衣
黒ごろも　身につけ
つまづいて　つまづいて
笑いつつ　悲しげに
笑いつつ　狂い女は
どこへゆく

知らず
骨皮の　剣(つるぎ)の衣
身につけ
幻は去る
幻は去る