夕影
洗われて 洗われて
土は多感の心を現し
静寂が はいまわる
神さびたる 大木の根に
小さく 座る人一人
烟る その影
日は条々と
千古の涙を流し
深く生き身に沈む
草々に分け入り
風はなやと深く ため息
毒をふくむ 春は夕
緑どす黒く地底を流れ
滔々轟々と 古ぶるしい土管を
土管を虫食む
暗黒をなめ崩し
猛虎のごとく
暴虎のごとく
嘔吐のごとく 逆下る
きのうの軽薄知るとなく
澱みのまえの胸かむ悲哀に
戦車のごとくあせる慟哭
かくいう暗黒の緑青粘体は
赤き血の滲み膨らむ
網膜おおい
大地に吹き出
どろっと固まり
しっとり固まった暮れ方を
苔むしの岩に
村雨丸の霧吹く刀身
硬直の風吹く
樹下美人の緑の髪の
やわらかく厚く深い
黒緑色の大杉のもとに
若き剣士の 芒どもは
素朴のんきで単純で
雑踏のなかを突っ立ってゆく
空は薄青い涙雨 ため池か
かそけく かそけく
あまりにも しとやかに
西風の吹き
気づき騒ぐは
細く丈高い詩人の木たち
夜がくる 夜がくる
ひそやかにせよ しとやかにせよ
夜だ
絶え間ない 星の光だ
あゝ灯った
秋葉神社の灯籠が
赤々と赤裸々の衷心の
ほんとにしっかりと小さく
いとしい涙さながら
あゝ鎌月よ 弦月よ
厳かな祝福の幽玄にさながら
また
苦悶の女々しさに
似たる 白空に
煌煌といまは
傷ついた好漢のごとく
じっと かなたを見つめて
ゆるがず
輝きわたる
月の薄衣は
日 没するところ
異国情緒の 山の背に
ぬぎすてられ
そぞろ
寒風は墓場を撫で
大池の蓮に水鳥の憩う
緑青の大地は
黒く固まり 埋み火輝く
天は
鋭く長き三日月の
女体の鎌が流し目に
鎮(しず)みわたる
畏れるごとく
冷々と
あゝなんたる懐かしき
銅像のごとく
苔古りし
石の上