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    その奥 底なし沼

黒い鳥 さっとよぎり
醜悪な木は 黒葉の歯をむき
とぐろ巻き鎌首もたげ
陰険な目は眠ったふりをし
脂に黒蟻羽虫 たかって死に
鱗に蔦の生えまとい
黒く乾き
だらりと髪の毛のたれ下がり
枝から沼のぶよつく肌に
かぶる闇の森

水際(みぎわ)に 深き草の下
黒い大蛇の根っ子まで
うじゃうじゃうじ虫毒虫毛虫百足虫
そんな黒いもじゃもじゃに
みだらな欲望を恥じらいみせて
底なしの無限のふやけた涙を隠す
水は 艶々しく
滑らかに ぶよぶよと
弱々しかった 肌理(きめ)は荒かった
丸くすべっこい 生白い砂礫には
艶めかしい蔦が 乱れ薄く這い
繊(ほそ)く震えていた 恥じらうように

あゝ淫乱の誘いよ
疣疣の蝦蟇
ぞくっと震え 飛び込んだ
がぜんと震えは 波と燃え立ち
猛然と 手足をバタつかせ
掻き乱し狂いまわり泡を吹き
驚喜はそのまま水の高鳴り
波はたかまり
岸に打ちつけわくわく揺れ
煮えたち滾り溢れ
枝はゆさゆさ
揺れ 蔦はぶるぶる震え
目は血走り 酔い浮かれうねくね
草も虫も がさごそ
ぞろぞろ 踊り浮き足
石も暗い肉色をおび 蒸れ
湯気は頭をふるって あたりを襲い
あたりは湯気にかくれ
湯気の底から ドックドックと
響き打ち揺れ動気し
そのまま いつまでも いつまでも

月がでていた
砂漠は輝き ただ静かに流れ
空は深く冷たかった
希望の目覚める南の星の
慈しみ深い緑の光りの下に
森はいまだ髪もとかず
寝乱れ静かに横たわっていた
沼は真珠のように映えわたっていた