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   顔

赤い赤い水が燃えていた
草の根に 岩の苔に 木の葉に
真っ赤に ポトポト 空に
 したたっていた
あたりに透明な黒い焔(ホノオ)がけぶってた
 空中に
 千万年も昔から
意外に思うには
それでも不満足な
 暗さ 固さ いきどおりを
 もっていたのだ

遠く 広く谷深い大きな山河にも
かすかにけぶる
茜の霞がしずかに こもり立ち
 燃えていた
その上 血のように紅くなめらかな
大湖がひろがり
 青白いもやと蒸し消えていた
おそらく 限りなく高くけわしい
氷の山が 血をにじませて
 林立しているだろう
おそろしく
おそろしく
深い たくさんのキバをふるわせ
それでも幽かに眠って

もうもうと草のはびこった
沼からはいあがったひき蛙
青白い湯気につつまれていた

年をとったガマは思った
だれだ こんなに燃やすのは
いまにも 地が割れそうじゃないか
茫々としたかやの群落はどうした
いまはあたりいっぱいにいやな臭いがする
生肌のこげる臭いだ
生暖かいのが充満しとる
あいつだな
でかい岩の上でえらそうに座ってる
変に 生臭い青白い色した
あいつは自分をこがすつもりか
変に足をバタつかせて 気どり
そのたんび 地に赤いヒビが
網の目のように 口を開き
なんか恐ろしいゴウ音がして
炎がでる
なんてばかなことをする
あいつはもうあいつではないんだな
たかくて黒っぽいあいつはもう
裂け散った 太陽なんだな
悲しいから歌ってやろう
そしてガマは 小ちゃな半コゲの石に
ぼそぼそ 自分はすぐれているんだと
思いながら 歌を回虫のように
ぬきだしていた

夜もなく昼もなく
太陽も月もない
不思議に透き通ってヒビ割れて
一面の一面の黒い藻草や蔦葛
烟る沼の
腐れ果てた臭気のなか
暗緑色の崖の上でうごめく変に
ぶかっこうなやつは
昔々の大昔から
悲しげによだれをたらしながら
ああしていたんだ
そして赤い赤い大地と
空もあったんだ
はるか茫々
 山河こえて
草原わたり
柳にふれる風にあい
土にしみてる火をおこし
石も土もカサカサにこげ
それでもしっとりと

 廃墟に下人の首がころがり